第4章 桜の頃までそこにいて
小皿に乗ったピザを食べ終えた後、ルリちゃんは追加のワインを店員さんに頼んだ。
彼女は社会人になってからできた、貴重な友達。
蔵原くんと同じ会社に勤めているところから繋がり、今ではプライベートでも会う仲だ。
もちろん、元彼との事情もよく知っている。
「…何着て行けばいい?」
「むしろ何着ていくつもりだったの?」
「普通に無地のカットソーとデニム」
「気合いが足りないね」
「だって、清瀬さんだってジャージで来るに決まってるもん。気合い入れてたら恥ずかしいよ。ていうか、やっぱデートじゃない気がする…。一日中ずっと記録会見てるって言われても清瀬さんなら納得なんだけど」
「本人に聞いてみなよ。明日ってデートのつもりですか?って」
「聞けるわけない!」
「スマホ貸して」
白黒ハッキリさせたいタイプの友人にとって、私のこの態度はさぞもどかしいのだろう。
手をこちらに差し出し、上下にヒラヒラさせてブツを寄越せと催促する。
「何…?変なことしないでよ」
おずおずとスマホを差し出せば、無言でそれを受け取り高速で何やら文字を入力した。
[記録会って何時に終了予定ですか♡夕方の屋外は寒くなりますよね♡何着ていくか迷っちゃって♡]
スマホ画面に並んでいるのは、清瀬さん宛のメッセージだ。
「このLINEにどう返信してくるかで、メインイベントが記録会なのかデートなのか、判断できるんじゃない?」
なるほど、と感心する。
清瀬さんがどういうつもりで誘ったのか、返答によって判断できそうだ。
記録会が終わり次第解散するのか。
食事くらい一緒にするつもりなのか。
はたまた、別の予定も想定しているのか。
悪ふざけの♡マークは消して、送信。
ものの数分で、テーブルの上のスマホがブルルッと震えた。
[昼には終わるよ。車出すから防寒は然程気にしなくていいと思うけど、念のため羽織が一枚あるといいかもしれないな。車内に置いておけば荷物にはならないし。記録会のあと、どこかに出掛けよう]
出掛ける?お出かけ?二人で?
「律儀に防寒のこと気にしてくれてる!しかも車!そんでもって出掛けるってことは…」
ルリちゃんの声を遮るように、再びバイブ音が鳴る。
[デート、楽しみにしてる]