第4章 桜の頃までそこにいて
母校というと、清瀬さん、岩倉先輩、蔵原くんが卒業した寛政大学のこと。
お正月、テレビ越しでしか観戦したことのない大学生選手のレースに俄然興味が湧いて、すぐに頷いた。
「行ってみたいです。あ、蔵原くんも一緒に?」
「いや。カケルはいない」
「……二人で?」
「二人で、だ」
それ…は…。いや、違う。
一瞬「デ」から始まる浮ついた言葉が頭を過ぎったけれど、すぐに打ち消した。
陸上の記録会を観戦しに行くのだから、仕事の延長のつもりなのだろう、きっと。
蔵原くんがいなくても何も問題はないため、すぐにオッケーの返事をした。
「8時半に迎えに来るよ。一日空けておいてくれる?」
「はい。え?朝なのでお迎えとか大丈夫ですよ?」
「いいからいいから」
まだ肌寒い春の夜道を歩く。
ふと、街灯の明かりに照らされた桜の木が視界に入った。
毎日通る道だ。この枝に色づく蕾は、日毎に膨らんでいる。
淡いピンク色の花弁が開く日は、もうすぐそこ。
「じゃあ、また明後日」
「送ってくれてありがとうございました。……あ!」
「?」
「虹の写真!夕方の。嬉しかったです。清瀬さんがああいうメッセージくれたの、初めてだったから」
「……そうか」
「帰り道、気をつけてくださいね」
「ああ。おやすみ」
「おやすみなさい」
清瀬さんと二人でお出掛け……いや、記録会観戦。
休日の昼間に会うなんてこれが初めて。
以前学生を指導したいとも話していたし、大学生の走りを間近で体感するのは清瀬さんにとって意味のあることなのだと思う。
「デートじゃん、それ」
「違うよ。陸上の大会に行くの」
「夕方までずーっと記録会眺めてるっていうの?一日空けておいてって言われたんでしょ?その後デートするつもりなんじゃないの?」
翌日、友人とランチをしている最中、そんな話になった。
「そうなの…?」
「そうなの!さつきさぁ、恋愛方面のアンテナ鈍くなってない?陸上はさつきと清瀬コーチとの共通点なんだし、それをダシに誘われたに決まってんじゃん」