第4章 桜の頃までそこにいて
(さて、どうしようか…)
上司と明日のスケジュール変更などのやり取りをしたあと、元いた個室へ戻ってきた。
足を踏み入れるのを躊躇してしまう。
先輩には私の清瀬さんへの微妙な心境、見透かされていたりして。その可能性は大いにある。
先輩からしたら、恋愛においての私の癖や行動パターンはきっと高校生の頃に履修済みなのだ。
とは言っても私だってあの頃より大人だし、そこまで露骨な態度はしていない…と思いたい。
清瀬さんのこと、まだ自信をもって好きだなんて言えない今の状態だからこそ、お願いです先輩。
変にくっつけようとかしないで…!
「なあ、さつきのこと、狙ってんの?」
思い切って引き戸に手を掛けようとしたちょうどその時、先輩の声が聞こえてきた。
な……
私の話……?
「ああ。よくわかったな」
「あんだけ露骨なら誰でもわかるわ。さつきのどこがいいんだよ」
やめて…。
入って行けなくなっちゃった…!
「まずは仕事において信頼できるところかな。選手一人一人の特性を踏まえて、ベストな提案をしてくれる」
「へぇ。他は?」
「うーん…以前まではコツコツ真面目に仕事をこなす人という印象だったんだが、カラオケとゲーセンに行く機会があって。その時はすごく無邪気に笑ってたんだ」
「そっちのが素のさつきって感じだよな。何?ギャップにやられたの?」
「そういうことになるのか。俺はゲームなんて全くできないのに楽しそうにしてくれるんだよ。それを見てたら、可愛い人だなぁって思ってしまって」
「何かハイジからこういう話聞くの、ムズムズするわ」
「お前から聞いたくせに」
「そうだった」
完全にタイミングを逃した。
盗み聞きしてしまっているにも関わらず、清瀬さんの言葉のひとつひとつに胸が温まる心地がする。
「あとは、泣き顔かな」
……え?
"泣き顔" って。
きっとこの前のことではない。
泣き顔は見られたくなくて、ずっと背を向けてもらっていたから。
それ以前にも泣いたの?私…。清瀬さんの前で……。