第4章 桜の頃までそこにいて
「ごめんなさい。もしかして、無理して来てくれました?」
「どうして謝るんだ?無理なんかしてないし、風見さんから誘ってくれて、嬉しかったよ」
隣に座る清瀬さんは、私の目を真っ直ぐに見て笑った。
清瀬さんは自身の気持ちを口にする時、いつだって嘘のない瞳で私を心ごと捕まえる。
今日の夕方、お誘いのメッセージを送るのには幾分勇気が必要だった。
だからこんな風に言ってもらえて、私の方がよっぽど嬉しい。
「今日じゃなければユキにも会えなかったしな」
「ついでみたいに言うな。つーかさ、お前ら…」
「ん?何だ?」
「や…、まあいいか。それより、さつきは今何してんの?」
数分後、届いたドリンクを飲みながらお互いの近況や学生時代の話に花が咲く。
清瀬さんと蔵原くんが箱根駅伝を走ったことは、既に知っている。
けれど、そのチームメイトの中に岩倉先輩も含まれていたことは今日初めて聞かされた。
箱根は今でこそ毎年欠かさず観戦するようになったものの、学生の頃はそうではなかった。
今更ながらその勇姿を見逃した過去が悔やまれる。
「高校の時の風見さん、どんな感じだったんだ?」
二人の大学時代の話が一段落着くと、清瀬さんは先輩に尋ねた。
「体育祭のリレーで、めちゃくちゃ派手な転び方して目立ってた」
「それは災難だなぁ」
「何でよりによってそんなことバラすんですか…?」
「さつきと言えばソレだろ」
もっと他に思い出あるでしょ!と異論を唱えたかった。
けれど、赤点ばかりの私を見かねて勉強を教えてくれたり。
好きな人に告白してフラれたところを目撃され、酷い泣き顔を晒してしまったり。
落としたスマホを日が暮れるまで一緒に探してもらったり。
先輩からしたら私って、かなり面倒くさい部類の後輩だったのではと思えてならない。
「あのリレーで一気に校内の有名人になったもんな」
「もう…。忘れたい過去だったのに…」