第4章 桜の頃までそこにいて
「何、お前ら知り合い!?」
「仕事仲間なんだ」
親しげに話す二人の様子を驚きつつ眺めていると、清瀬さんが私にも目を向ける。
「ユキとは同じ大学だったんだよ。学生寮に住んでたって話したことがあっただろ?その時の住人の一人。風見さんとユキは?」
「高校の先輩なんです」
まさかこの二人が旧知の仲だったなんてびっくりだ。
世間は何て狭いのだろう。
「風見さんがキャッチセールスにでも捕まってるんじゃないかと思ったんだが」
「どうりで視線に棘があると思ったわ」
思いがけず岩倉先輩という共通の知人に再会したことで話は弾み、せっかくの機会だしこのまま三人で飲みに行こうと盛り上がる。
「あ、舞ちゃんに連絡はしたか?夕飯いらないなら事前に言っておかないと…」
「大丈夫。舞は今日会社の飲み会だとさ。いちいち母親みたいなこと言うの、相変わらずだな」
実はさっきから気になっていた。
岩倉先輩の左手の薬指には、銀色の指輪が光っている。
「先輩、結婚したんですか?」
「ああ。去年な」
「そうなんだぁ」
「もしかしてそれ、舞ちゃんに土産か?」
「ん…?ああ、まあ…」
先輩の片手には、パン屋さんの店名が印字された茶色のビニール袋がぶら下がっている。
その大きさからして結構な量だ。
「別の路線使ってるのに、わざわざ買いに来たみたいですよ?」
「へぇ。愛だなぁ〜」
「愛ですよねぇ〜」
「いいだろ別に!俺も好きなんだよ、ここのパン!」
私と清瀬さんが結託してからかうと、先輩は声高にそのやり取りを断ち切り耳を赤く染めた。
何だか意外。先輩がこんなふうに照れたりするなんて。
高校の頃の先輩は結構モテるタイプだったけど、女子との話題で赤面したところなんて見たことがない。
素敵だな。奥さんのこと、大切にしてるんだ。
「みんな生でいいか?」
「いや、俺は烏龍茶で」
「え?清瀬さん、飲まないんですか?」
「明日仕事で県外に行くから、朝早くてね。二人は遠慮なくどうぞ」
お酒の席ではアルコールを楽しむタイプの清瀬さんだから、こんなタイミングで誘ったのは失敗だったかもしれない。