第4章 桜の頃までそこにいて
何気なく清瀬さんとのトーク画面を遡ってみる。
そこに並べられた文字は、やはり必要事項だけ。
飲みに行くお店の相談、待ち合わせの時間、約束のキャンセル、食事のお礼、それ以外では仕事の連絡。
こんなメッセージをくれたのは、初めてだ。
まだ私が落ち込んでると思っているのだろうか。
この虹の写真は、彼なりの慰めだったりして。
思い返してみると、割と清瀬さんの前では喜怒哀楽を曝け出してしまっている気がする。
それなのにいつも嫌な顔ひとつせず、あまり感情の起伏も見受けられない。
隠すのが上手い人なのかもしれないけれど。
何にしても、清瀬さんを知るからには受け身ばかりの自分ではダメだ。
意を決して、こちらからメッセージを送る。
[今夜、会えますか?]
送信後すぐに、曖昧な誘い方だと気づいて慌てて文章を練る。
(わ…何か意味深になっちゃった…!違う違う。えっと… " ご一緒にお食事でもいかがですか " だと堅いかな?普通に飲みに誘えば…)
あたふたしている間にメッセージの受信音が鳴る。
[会えるよ。終わったら連絡する]
よかった…普通に受け取ってくれたみたい。
変に避けられているわけではないこともわかり、自然と頬が緩む。
「さつきさーん?何か嬉しそう!」
そんな私に気づき近づいてくるのは清瀬&蔵原ファンである後輩の女の子で、色恋に関しては妙に目ざとい。
「え?そう…?別に普通だけど…」
「もしかして!彼氏できたんですか!?」
「残念ながらできてません。ほら、片付け片付け!」
「えー?何か誤魔化してません?怪し〜い!」
何とか言いくるめ、ここ最近では一番じゃないかとも思える手際の良さで掃除と片付けを終えた。
外はすっかり陽が落ちている。
人工的な明かりと人で溢れる駅前で、清瀬さんを待つ。
職場のそばでは誰かに見られるかもしれないので、プライベートでは会う時はいつもここが待ち合わせ場所。
数分前、清瀬さんから少し遅れるとのメッセージが入ってきた。
今のうちに手鏡で身だしなみを確認する。
実は、普段の私より少しだけ手を掛けてから職場を出てきた。
髪の毛に少しアレンジを加えて、化粧直しもして。
正直、もうこれ以上できることはない。
ネットニュースやSNSをチェックする気分でもなく、ただぼんやりと佇んだ。