• テキストサイズ

雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第1章 One Night…?



無遠慮に首を突っ込んでくる清瀬コーチに、嫌悪感が生まれた。
こういうタイプの人だとは思っていなかった。
爽やかな風貌とコーチ業に真摯取り組む姿しか知らなかったため、一気に見る目が変わりそうになる。


「慰謝料は取ったんですか?友達に弁護士がいる。よかったら紹介しますが」


黙ったままの私に、清瀬コーチは思わぬ提案を告げた。
合わせるつもりのなかった視線がぶつかる。
その瞳に、軽薄な雰囲気は見つからなかった。
ただ真っ直ぐに、仕事をしている時と同じような真剣な目で、私を見ている。
この人の中に、興味本意とか野次馬根性だとかいうものはない。
そう気づいた時、私はお酒のせいもあってか、触れられたくはないはずの過去をつらつらと話し始めていた。

「いえ、そこまでは…。式場キャンセルの手配とか、お金とか、全部精算していったので」

「浮気されたっていうのは?」

「事実ですよ。しかも相手の女性は妊娠していて。自分の身にこんなことが起こるなんて、思ってもみませんでした」

「なかなかあることじゃないでしょうね」

「もういいんです、過去のことなんで。仕事だけは失わずに済みましたし」

「好きなんですね。この仕事」

「好きですよ。婚約破棄された上に仕事まで失うなんて、あり得ないじゃないですか。罪滅ぼしの気持ちがあるならあなたが辞めて、って言いました」

「へぇ!やるなぁ」

「……嘘。本当は引いてるクセに」

「引いてなんかいない。風見さんが引き下がる理由なんて、ひとつもないでしょう」

「…はい」

友達以外では初めてだった。
腫れ物に触れるような扱いをするわけでもなく、逆に酒の肴にするわけでもない。
ただ淡々と、言葉のキャッチボールをする。

「私も、聞いていいですか?」

「はい。どうぞ」

「その脚は、怪我の後遺症ですか?」

歩く時僅かに右脚を引きずっている清瀬コーチのことが、前から気になっていた。
けれど故障をきっかけに現役を退く選手なんて大勢いるし、わざわざプライベートに踏み込んでまで聞く理由はない。
そう思っていた。
それなのに、こんなことを尋ねたのは何故だろう。


/ 139ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp