第1章 One Night…?
懇親会と称した飲み会は実に盛り上がっている。
無礼講とばかりにおじさん連中は下ネタに花を咲かせていて。
正直、キツイ。
作り笑いのし過ぎで表情筋が痙攣を起こしそう。
「風見さん、一緒に飲みませんか?」
救いの手が…いや、救いの声が私を呼んだ。
声の主の方を見てみると、人差し指で自分の隣の座布団を指差している。
「なんだぁ〜、清瀬くん!うちの風見がタイプか!?」
「いいじゃないか、若いもん同士!今夜は無礼講だ!」
「そうそう無礼講無礼講!」
何度目の無礼講か。
もうこの飲み会で一生分の無礼講を使い果たしていると思う、この人たち。
「あ!清瀬くーん!こいつ傷心だからな、慰めてやってくれ!なっ!ほら風見、行け行け!」
上司である所長に余計なひと言とともに背中を叩かれる。
「何ですか、傷心って?」
「風見の奴、半年前に婚約破棄されましてねぇ!しかも相手もうちのスタッフだったから、まあ気まずい気まずい!結局退職したのは男の方でね。向こうに非があったんでしょうなぁ。たぶん浮気ですよ、押しに弱そうな奴だったから」
「ひぇー!実際そんな修羅場あるんスねぇ!」
無礼講なんてものを超えている。
酷い…あんまりだよ。
いくら酔っているからって、こんなの個人情報の拡散だ。
もう嫌だ…帰ろうかな…。
でもここで帰ったら絶対空気が悪くなってしまう。
実際私の事情を知るうちのスタッフは、他の話題で盛り上がっているように見せかけ、終始気づかないフリを貫いている。
「風見さん。こっち」
遂には私のところまで来て、清瀬さんは手を引いた。
バカ騒ぎするおじさんたちの輪の中から離れ、二人きりになる。
「同じもの頼みます?ノンアルコールの方がいいかな」
「じゃあ、同じのを」
「分かりました」
手持ちの生ビールがほとんどないことに気づいた清瀬さんは、私を気遣ってか飲み物を注文してくれた。
やっぱり元彼が退職する時に私も辞めればよかったのかもしれない。
職場内だけではなく、部外者の人にまで気を遣わせてしまって。
「さっきの話、本当ですか?」
「え?」
「婚約破棄されたって」
「……」
ああ…この人も同じなんだ。
気を遣ってくれたのではなく、面白そうな話題に食いついてきただけ。