第3章 曙の空、春の海
「フラットタイプの部屋にしておけばよかったな。ソファーじゃ首が痛いだろ?もたれていいぞ」
「清瀬さんは?寝ないんですか?」
「まだ眠くないんだ。もう少ししたら仮眠する」
ソファーの脇には、清瀬さんのタブレットが置かれている。
仕事でもするのだろうか。
もたれていい、と言われても、目が覚めてしまうと改めて頭を預けるのが気恥ずかしい。
「どうした?ああ、膝枕にするか?」
……冗談?本気?
何を考えているのか分かりかねる、恒例の清瀬スマイル。
ご丁寧に両腕を少し上げて膝へ誘導しようとしている。
「謹んでお断り致します。こちらで十分なので」
冗談だと判断し、潔く清瀬さんの肩にもたれてブランケットを被った。
「残念だなぁ」
クスクス笑う声がすぐそこで聞こえる。
やっぱり冗談だったか。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
黙って瞼を閉じたまま、しばらくの間考えに耽る。
頭を占めるのは、主に清瀬さんのこと。
つい数時間前の元彼との遭遇は、悪い夢だったのではと錯覚する。
そのくらい、遠い日のことに思える。
今夜、清瀬さんがいてくれてよかった。
もたれていた体がふいに動いた。
次の瞬間、膝に温もりを感じる。
清瀬さんが自分のブランケットを私に貸してくれたのだ。
ああ、やっぱりだ。
私の手を引いた時も、額に触れた時も、優しく抱きしめた時も。
清瀬さんが私に触れるのは、いつだって体や心を案じてくれている時だけ。
さっき約束したとおり、本当に何もしない。
暖かい。
気持ちがいい。
清瀬さんの温もりの心地よさが、微睡みを誘う。
今日はっきりわかったことがある。
私にとって清瀬さんは、"信頼できる人" 。
この先恋をしたとして、過去に囚われて相手を疑うような真似はしたくない。
そんな自分にはなりたくないし、好きになった人を心から信じたい。
清瀬さんなら、この関係が恋愛に変わったとしても信じ続けられる気がする。
心は大地のように広く豊かで、気づけば春風みたいに優しく包み込んでくれる。
いたずらに私を乱すこともある清瀬さんだけれど、彼と過ごすようになってからは、単調で無気力だった毎日が潤っていくのを感じる。
自分の心ともっと向き合っていたいのに、どうやらここまで。
また、眠りに落ちそう―――。