第3章 曙の空、春の海
それから、改めて先程の映画を冒頭から見始めた。
何度かポツリポツリと会話を交わしたのは覚えている。
元彼と遭遇したことや、自分が抱いた感情への嫌悪で精神的に参っていたのは間違いない。
清瀬さんが一緒にいてくれるこの時間が、身に沁みた。
きっと、憑き物が落ちたみたいに気持ちが軽くなって安心してしまったのだと思う。
徐々に浮遊感に襲われ、映像は段々ぼやけて音声も遠くなっていく。
「うぅ…、ん…」
次に気がついた時、室内は静かだった。
一瞬、ここがどこだったのかわからなくなる。
「寒くない?」
身じろぎしたはずみで肩から落ちたブランケットを、清瀬さんが掛け直してくれる。
そうだった。
清瀬さんと一緒にネカフェに来たんだ。
それから話をして、映画を見て。
肝心の映画は、もう流れていない。
私はと言うと、清瀬さんの肩に身を預けるようにしてもたれ掛かっている。
「始発が動き出したら起こすよ。それまで寝てるといい」
「始発……?始発!?今、何時ですか!?」
「もうすぐ1時」
「1時…!?すみません、私が寝ちゃったせいで…!」
「俺は問題ないよ。一応一度は起こしたんだけど。眠りが深かったみたいだな。今更だけど、帰らなくて大丈夫?」
「はい…大丈夫です…」
「よかった。気持ちよさそうに寝てたから、無理矢理起こすのは気が引けて」
「本当に、すみません…」
仕事で疲れているところを私的な事情で引き止めて、その上終電を超えるまで眠りこけてしまうなんて。
清瀬さんには迷惑ばかり掛けている。
「謝らなくていいよ。ちゃんと眠れるだけでも、少し安心した」
清瀬さんは、何てことのないように笑った。
あの二人への感情を引きずったまま清瀬さんと別れていたら、今頃ベッドの中で悶々としていたに違いない。
きっと、不毛な恨みを抱えながら朝を迎えていた。
眠ることができたのは、それはたぶん、清瀬さんと一緒にいたからだ。