第3章 曙の空、春の海
「へぇ、映画も自由に見られるんだなぁ」
物珍しそうにリモコンを操作する清瀬さん。
空気を柔らげようとしてくれているのか、至って普段と変わりない。
「あ、それ見逃したシリーズの最新作…」
「これ?見るか?」
一旦解れた雰囲気からどう真面目な話に持っていこうか、思案していたところだった。
とりあえず字幕で流しておいてもらうことにして、ソファーに背を預けた。
「焦らなくていいから。気持ちが整ったら、話をしよう」
ドリンクを取りに行く時に借りてきてくれたのか、清瀬さんはブランケットをこちらに差し出した。
映画が始まり、しばし二人で画面を見つめる。
戦争が絡んだ話で、向こう側の世界は私の心より遥かに重苦しい。
当然、ストーリーも頭には入ってこない。
清瀬さんに話したいことはある。
けれど、こんなことを話したら、清瀬さんは私を軽蔑するかもしれない。
嫌われる、かも……。
ああ、そうか。
私、清瀬さんに嫌われるのが怖いんだ。
半年前の別れを経験してから、優しさの裏で最低な行為をする男がいることを身を以て知った。
上辺の優しさや耳心地がいいだけの言葉なんて信用してはいけないと、強く釘を刺した。
そんな私だからこそ、心を開けるかも、と思えるようになった人との関係を壊したくない。
でも清瀬さんが誠実に向き合ってくれているのに、そんな彼を騙すようなこともしたくなくて…。
覚悟を決めて、口を開く。
「少し前の話から、していいですか?」
「もちろん」
清瀬さんはリモコンを手に取って、映画を一時停止した。
いつもは真っ直ぐ私の目を見てくるけれど、今日は膝に視線を落としたままだ。
恐らく、私が話しやすいようにそうしてくれている。
「半年前の私たちは、お互いの親や会社に挨拶も済ませて、式の準備をしていました。彼は割と物事を計画的に進めたいタイプの人だったんですけど、新居だけはなかなか探そうとしなくて。私は結婚を待たずに一緒に住み始めてもいいと思ってたのに、その気持ちを伝えても渋って先延ばしにされて」
何かがおかしい、と疑わなかった私もバカだ。
いずれ二人で暮らすのだから、今は期限のある気楽な一人暮らしを満喫しようと考えを変え、彼の言うことに従った。