第3章 曙の空、春の海
「風見さんの方からそんな提案をしてくれるとは思わなかったな」
「賛成?」
「大賛成だ」
「じゃあ、お昼休みにここで待ち合わせってことで」
「仕事の都合で来られない日は連絡を入れることにしよう」
「はい」
飲みに誘ってくれたり、お弁当を作ってくれたり。
その想いの分量と同じだけの気持ちを私も返せたらいいのだけれど、自分のこととは言え、先の心まではわからない。
せめてしっかり向き合って、清瀬さんへの答えを出そうと思う。
「このミネストローネ、めちゃくちゃ美味しいですね。あとでレシピ教えてもらえませんか?」
「もちろん」
美味しいランチでお腹を満たしたあとは、館内を見て回る。
私はリハビリの本を読み比べ、一冊借りることに。
清瀬さんもスポーツ指導に関連した本の一角にいたはずなのに、いつの間にかいなくなってしまった。
いくつもある本棚を横切りながらキョロキョロ辺りを見回していると、窓際の席で読書に耽っている清瀬さんを見つけた。
暖房で暖められた館内ではワイシャツ一枚で丁度いいのか、スーツのジャケットは椅子の背に掛けられている。
首元のボタンをひとつ開け、ネクタイを緩めて。
長い睫毛を伏せて活字に視線を落とす姿からは、妙な色気を感じられる。
掴みどころのない人ではあるものの、ああしていればまともなイケメンに見える。
きっと、モテるんだろうな……。
そう言えばうちの職場の後輩にも、清瀬さんのファンがいたっけ。
まあその子の場合、チーム内のエースである蔵原くんのファンでもあるのだが。
要は、芸能人に対して熱を上げるのと同じ類のものだ。
でも、あの女性は……?
ふと思い出した。
髪型、メイク、爪の先まで抜かりなく、美意識も女子力も高そうな、受付の綺麗な女の人―――白河さん。
清瀬さんと話している時のあの人は、はにかみながらも嬉しそうで、幸せなオーラみたいなものが漂っていた。
好きなのかな、清瀬さんのこと。
私はいつもごく薄いメイクしかしていないし、髪の毛もひとつに結えるだけ。
選手の体に傷をつけてしまうことのないよう、短く切り揃えたままの、色も飾りもない爪。
こうして比べてみると、清瀬さんには白河さんのほうがよっぽど似合っているように思える。