第3章 曙の空、春の海
「今日も美味しそう…」
「どうぞ召し上がれ」
「いただきます」
手を合わせて、デミグラスソースのかかったハンバーグをひと口食べる。
「うぅー…やっぱり美味しい!」
「よかった」
昨日、一昨日のお弁当は、以前の会話で私が好きだと話したものばかりが入っていた。
その中で唯一魚の煮付けはお弁当に向かないからと、代わりに鯖の竜田揚げを作ってきてくれた。
ここ最近の私の栄養源は、清瀬さんのごはんだと言っても過言ではない。
バランスが良く、どれも美味しい。
「前から不思議だったんですけど…」
何度考えてもソコに辿り着くので、いっそ本人に聞いてみることにする。
「もし私と付き合ったとして、清瀬さんに何かメリットあります?絶対清瀬さんの方がお料理上手だし。その感じだとたぶん、他の家事もそつなくこなすんでしょうし…」
清瀬さんは口に入ったご飯をコクンと飲み込んだあと、淡々と私の質問に答え始める。
「恋愛関係に限ったことじゃないが、まず人と付き合うのにメリット・デメリットなんて考えたことはないかな」
「確かに…そうですね。私も付き合う人をそんな風に考えて決めたことはないです」
「だろ?」
恐らく、今の私の自己肯定感は史上最低にまで落ち込んでいるに違いない。
自分の価値を見い出せないのだ。
だから私を気に入ったと言ってもらっても、あなたにとって何の得にもならない女ですよ、なんて卑下してしまう。
「それと、女性に家事のスキルは求めていないから、例え風見さんが家事全般ダメでも問題はない」
「全般ダメってことはないですよぉ…一応…」
「あぁ、そうか。失礼なことを言ってしまったかな」
「いえ…。決して得意ではないので」
「あとは料理についてだが、確かに風見さんの言うとおり、家庭料理くらいならひととおりはできる。でもそれだけだ」
「それだけって?十分じゃないですか」
食事は毎日三回付いて回る。
限られた生活費の中で、時間と手間を惜しまず美味しいものをバランス良く作れる能力があるなんて。
私にしてみれば羨ましい限りだ。
それなのに清瀬さんは、自分のその特技をさほど価値あるものだとは思っていないように素っ気なく言う。