第2章 リスタート
「良かった。風見さんも同じで」
そう言って笑う清瀬さんに、また少し胸がざわついた。
この人が一般的に見てイケメンの部類に入るのは確かだと思う。
けれど顔の造形の問題ではなく、自然体で自分をよく見せようという欲も感じられないこの人の振る舞いと笑顔は、どこか私の心をくすぐるのだ。
もしファッションや髪型まで抜かりない人だったら、私はきっと警戒して頑なにシャッターを下ろしたままだったかもしれない。
「ていうか清瀬さん、今日もジャージ!」
「ダメか?」
「ダメではないですけど。昼間のスーツはどうしたんですか?」
「職場に置いてきた。練習時間の割合の方が長くて一日に少ししか着ないから。あ、心配しなくてもワイシャツはちゃんと毎日替えてるぞ?」
「まあ、ゲーセンにスーツじゃ浮きますけどね」
「だろ?」
「ジャージで電車通勤も浮きませんか?」
「浮かないだろ。学生はジャージ着てるし」
あなた学生じゃないでしょ。
もう三十路近い大人でしょ。
そう付け加えようとしたけど、止めた。
ジャージが基本装備なのも清瀬さんらしいし、このくらい抜けどころのある方が今の私にはホッとする。
「送ってくよ」
「大丈夫です。お友達なんですから、ここで解散しましょう」
「友達だとかは関係なく、君は女性だろ。夜道は危ない」
「……」
「心配しなくても、家を特定しようとしているわけじゃないから」
最後のひと言は冗談っぽくもあり、私を安心させるような言い方でもある。
時々気持ちを乱すようなことを口にはするけれど、ちゃんと私の速度を気にかけてくれている。
友達としてなら、清瀬さんのこと、好きになれそうだ。
そんな心境に気づいた途端、侘しい気持ちになる。
これから1ヵ月のうちに、清瀬さんへどう返事するのかを決めなくてはならない。
気を張らず、緊張もせず、仕事への姿勢は尊敬できて、息抜きに飲みに行けるような間柄。
このままの関係で十分なのに、私の返答次第でリセットされてしまう。
男と女って、難しい。