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雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第2章 リスタート



「あ、引っかかった!わっ、あっ、イケる!?」

宙に持ち上がった柴犬は、途中で落下することなく取り出し口付近までやって来る。

「がんばれがんばれ…、わっ!すごーいっ!一発!!」

無事ゲットしたぬいぐるみを拾い上げ、清瀬さんはそれを私に差し出す。

「名誉挽回できたかな。はい、あげる」

「わぁ…かわいい…!ありがとうございます!」

特別ぬいぐるみが好きというわけではないけれど、クリクリお目々のこの子の顔は母性本能を鷲掴みにする。
モフモフの体を思わず撫で回した。

「風見さんって、仕事の時と印象変わるよな」

「え?」

「プライベートになると、思い切りはしゃぐだろ?」

この口ぶり、今日に限ったことではなさそう。
思うに、前回付き合わせた時もハメを外してたんだろうな、きっと。
あんまりいい意味じゃないよね…大人げないってことかな…。


「可愛いと思うよ、そういうところも」


柴犬のぬいぐるみに似た黒目がちな瞳で私を見つめたあと、清瀬さんは目を細めて笑う。

「からかわないでください…」

「え?どこがからかっているように見えた?」

「いい歳の女に対して可愛いなんて、あんまり言うもんじゃないんです」

「そう思ってしまったんだから、仕方ないだろう」

「だとしてもわざわざ口に出さなくて大丈夫ですから」

「ははーん、照れてるのか。カワイイナー」

「また言った!しかも今度はふざけてる!」

どこまで本気で、どこからが冗談なのか。
いつも笑顔を貼り付けているからわかりにくいったらありゃしない。

真に受けて傷つくのは嫌だ。
だからこそこうして予防線を張ってしまう。
可愛くなんてないですよ、全然。
可愛い女というのは、こういう時素直に「ありがとう」って言えるような人のことを指すんです。


「さて。これで、あの日をやり直すことができたかな」

「どういうことですか?」

「二人で飲んだあと、カラオケにゲームセンター」

確かに清瀬さんの言うとおり。
今日は、私が記憶を失くした夜と同じルートを辿ってきた。

「ここから再スタートだ。俺は楽しかったけど、風見さんは?」

「……楽しかったです。私も」

「本当に?」

「はい」

嘘じゃない。
この人に気を遣ったわけでもない。
つい大人げなくはしゃいでしまうくらい、楽しい時間だった。


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