第2章 リスタート
「……いいですよ。今夜、飲みに行きましょうか」
「いいのか?」
「はい。この前みたいにご迷惑をお掛けしないようにします」
「迷惑とは思ってないけど、そうしてくれると嬉しいよ。楽しく過ごしたのに忘れられてしまうと、寂しいものなんだ」
「……」
酔いに任せて振り回したことは間違いないけれど、清瀬さんはあの夜のこと、楽しかったと思ってくれてるんだ。
今日は絶対に酔わないように飲もう。
そう決意した、6時間後―――。
「…というわけで、強いランナーを育成するには10代からの心身へのケアが必要不可欠なんだよ!」
「わかります。中高生は特に監督やコーチが絶対的な存在ですからね。どんなに好記録を出せる選手でも、長期的に見た競技生活に対しては視野が狭い。不調や故障があるにも関わらず、それを押し通して走れなくなった選手がどれだけいるか」
「そう!それ!さすが風見さんっ!」
今日は清瀬さんの方がご機嫌だ。
今、生ビール5杯目くらいだろうか。
かく言う私は早々にノンアルコールに切り替えた。
この前のように酔い潰れてしまったら、清瀬さんとリハビリしている意味がなくなる。
というより清瀬さんとの陸上談義はとても興味深く、酔いで朦朧とした頭で話しては勿体無いと思えるほどだ。
「あのチームでコーチとしての経験を積んで、いつか…何十年後になるかもわからないが、学生を指導したいと思ってるんだ」
「いいじゃないですか!清瀬さんに向いてると思います!」
「ほんとに…?」
「はい!清瀬さんは選手一人一人のことよく見てますし、対話も欠かさないですよね。厳しい面はありますけど、威圧感があるわけじゃない。選手への愛情がちゃんと見えるんですよ。私が選手だったら、清瀬さんにコーチしてもらいたいくらいですもん」
「コーチとしての俺への評価は随分高そうだけど。それと恋愛とは違うんだなぁ」
返答に困ることを言わないで欲しい…。
現実に引き戻された気がして、甘いカクテルを含んで気持ちを紛らわせた。