第7章 春爛漫
「寝坊でもしたのか」
「ちゃんと起きましたよ。けど…乗る路線間違えちゃって。タクシーも捕まらなくて」
「それで走ってきたのか?」
「どこから?」
聞けば、ここから10kmほど離れた隣町からだそうだ。
「はははっ!カケルじゃなかったら式には間に合わなかっただろうなあ!」
声を上げて笑うハイジさんに反応して、瓜ふたつの顔立ちの二人が楽しそうに駆け寄ってくる。
「ナニナニ!?カケル走ってきたの!?」
「どんだけ走るの好きだよー!」
「今日は好きで走ってきたわけじゃない!」
双子のジョータくんとジョージくんだ。
この二人と一緒にいると、カケルくんは言動が幼くなる。
「さつきさん超キレイだね!大和撫子って感じ!」
「二人とも和装似合う!俺も結婚する時は袴着よっかなぁ!」
「ハイジさんみたいな黒もいいけどさ、真っ白な袴ってのもカッコよくね!?」
「それいいっ!」
「ジョータたちが白い袴なんか着たら成人式のヤンキー…」
「「なんだよカケルー!!」」
和気あいあいとしたみんなの会話の中に混じっていると、まるで学生時代に戻ったみたいに錯覚する。
「やっぱり花嫁さんって素敵ー!憧れちゃう!ウェディングドレス着たいってずっと思ってたけど、白無垢もいいなぁ!」
「ハナちゃんならどっちも似合うよ!」
「うんうん!」
「えっ?そうかなぁ…。えへへ」
葉菜子ちゃんは寛政大で陸上部のマネージャーをしていたそうだ。
ジョータくんたちの態度から察するに、アイドル的存在だったに違いない。
「王子さんはさ、白いタキシードじゃね?」
「確かに。"王子" っていうくらいだもんな!」
「赤いバラ持ってさ!」
「…君たち、僕の姿で妄想するのはやめてくれないか」
迷惑そうなジト目で双子を睨む、本当に王子様みたいな風貌の王子くん。
「そういやさ、雑誌に載ったカケルの写真、見た?王子さん」
「見ましたよ。見事な流し目」
「そうそう!」
「すっげーカッコつけてたよな!」
「お前らその話何度目だよ!」
同年代の男の子とはしゃぐカケルくんは、ハイジさんに遊ばれている時とはまた違って可愛い。
…あ、こんなことを言ったら、カケルくんは拗ねるしハイジさんはヤキモチを焼いてしまう。
口を噤んでおこう。