第7章 春爛漫
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「花嫁とはよく言ったものだな」
春も麗らかな、三月吉日───。
「本当に、花が咲いているみたいに綺麗だ」
私たちは、夫婦になった。
赤ふきの白無垢。
和装に馴染むよう纏めてもらった髪には、紅と白の椿を一輪ずつ挿した。
「ハイジさんもすごく素敵」
ハイジさんは黒の紋付袴。
思ったとおりだ。
洋装も似合うだろうけれど、想像以上に和装がしっくりくる。
派手な式にはしなくていいとお互いに意見が揃い、親族とごく親しい友人だけを招待した。
引き出物は、初めてのデートで訪れたガラス工房のグラス。
職人のおじさんは私たちのことを覚えていてくれて、依頼に訪れた際にはまるで身内かのように喜んでもらえた。
人と人との縁に、心から感謝したくなる。
今日という日に、私たちのためにここへ集ってくれたこと。
こんなにも温かい拍手と、「おめでとう」の言葉をもらえたこと。
私は今、幸せだ───。
「ハイジ!さつきちゃん!」
「写真撮ろうぜー!」
式の後、この式場自慢の庭園でお見送りの中、男性が二人近づいてくる。
ニコチャン先輩とキングさんだ。
寛政大陸上部のメンバーには結婚前にお祝いをしてもらう機会があったため、今日で会うのは二度目。
ハイジさんが支えられたと語った大切なメンバー。
私が陸上関係の職に就いていることもあり、初対面でも話は弾んだ。
親しみやすい人たちばかりで、みんなが醸し出す空気感はとても好きだ。
「お前が結婚とか信じらんねぇわ」
「ユキに続いてハイジもか。俺もそろそろ…」
「相手いんのか、キング?」
「そういうニコチャン先輩こそどうなんすか?」
賑やかに盛り上がる横からは、穏やかな笑みの神童くんと、ムサくん。
「素敵な式でしたね。泣いちゃいましたよ」
「感動しました。日本の神前式、素晴らしい伝統です」
そして、顔馴染みのカケルくん。
「ハイジさん、さつきさん。おめでとうございます」
「ありがとう。カケル」
「ありがとう。ねえ、式の前、控室の窓からカケルくんが走ってるのが見えたんだけど」
「え!?見られてたんですか…」
まさか、いくらカケルくんでも結婚式の直前まで走り込んでいたということはないだろう。
しかも、礼服で。