第7章 春爛漫
優しい風が吹いた。
枝が揺れ、はらはらと桜が舞う。
「花びらが付いてる」
ハイジさんはそう言って、私の髪の毛に触れた。
「ハイジさんの頭にも」
「どこだ?」
「左の方。あ、もう少し前…」
そっと花びらに手を伸ばすと、ハイジさんが腰を屈める。
「取れた」
ハイジさんの髪からひとひら摘み風に乗せるが、頭上で咲き誇る桜からは絶えず花弁が降りてくる。
「あ、また付いたよ」
「さつきの髪にもだ。キリがないな。いいよ、このままで」
薄紅の花びらを髪に飾ったお互いの姿に、思わず顔を見合わせ微笑む。
結婚式では少なからず緊張もしていたため、二人での何気ないやり取りが心を和ませる。
そんな中、ふいにスマホのシャッター音が鳴った。
「いい写真が撮れたぞー」
「ユキ」
「二人の時はそんな感じでイチャついてるわけか」
「こんなもんじゃ済まないが」
「いーんだよそういうこと言わなくて!」
スマホ片手に呆れ顔の岩倉先輩。
そして…
「おめでとう。ハイジくん、さつきちゃん」
奥さんの舞さん。
「まさかハイジとさつきが結婚するとはなぁ」
「素敵な二人で見惚れちゃうね、ユキくん」
「ああ。落ち着くとこに落ち着いたって感じだな」
「あぁうぅぅ…」
先輩に抱っこされている赤ちゃんが、泣きそうな声を漏らした。
「お、起きたか?」
「よく寝たねぇ」
お昼寝から目を覚ましたらしい赤ちゃんは、風に舞う花びらを目で追いながら喃語で一生懸命お話している。
愛情いっぱいの笑みでその様子を眺めながら、先輩と舞さんはパパとママの顔を見せた。
思わず口元が綻んでしまうような、幸せいっぱいの家族だ。