第7章 春爛漫
急速に進展する私たちの関係。
幸せ過ぎて怖い気もするけど、私はハイジさんを信じてる。
一度は疑ってしまった分、今度こそこの人を信じ抜くと決めたのだ。
この夏、私たちは慌ただしかった。
ハイジさんはただでさえ忙しい人だから、夏休みも三日だけ。
当初の予定どおりその休みを利用し島根へ帰省。
私も一緒に連れて行ってもらい、ご両親に挨拶した。
ハイジさんによく似た顔立ちのお義母さんは、気さくで明るくて、すぐに打ち解けることができた。
ただ、お義父さんは…
「ねえ、お義父さん、結婚に反対なのかなぁ…?」
ほとんど喋らない、笑わない。
良く言えば寡黙で激シブイ。
言い方を変えると……無表情で、少し怖い。
顔も似ていない上に、ハイジさんとは全く逆のタイプ。
「父さんはアレが通常運転なんだよ。息子の俺にすらろくに喋らないんだから。気にしなくていい」
「そう…?でも…」
「これ、父さんが土産にって」
「…え!?ほんとに!?」
「渡してきたのは母さんだけどな。父さんなりに祝福してくれてるから、心配ない」
お義父さんがくれたというお土産は、島根産の日本酒。
私の心配はどうやら杞憂らしい。
「そう言えば、うちも似たようなタイプの父だった…。先に言っておくけど、ハイジさんも気にしないでね」
「いや、息子の結婚相手と娘の結婚相手じゃ、話が変わるだろ。さすがに気になるな。反対されないといいが」
「それはない。大丈夫大丈夫!」
「気楽なもんだ。こっちは緊張で胃が痛いっていうのに」
翌週の土日で、今度は私の実家に赴く。
緊張で胃が痛い、なんて言っていたのに、その振る舞いは堂々としていて───
「さつきさんを、一生大切にします」
結婚の挨拶と同時に、そんな風に言ってくれた。
泣いて喜んでくれたおばあちゃんと、満面の笑みのお母さん。
そして、口数の少ないお父さんは、こんな場面でも相変わらずひと言だけ。
「幸せにしてやってください」
そう言って、ハイジさんに頭を下げた。
そのひと言にどれだけの想いが込められているのかと思ったら抑えきれなくなって、私はおばあちゃんよりももっと沢山の涙を流してしまった。