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雨のち花笑み【風強・ハイジ】

第7章 春爛漫






「さつき。愛してる」





「私も……愛してる」




初めて口にした。
「愛してる」だなんて。
重みを知っているからこそ、これまでの人生で縁のなかった言葉。
けれどハイジさんは、重みだとか恥じらいだとか、そんなフィルターをいつもすり抜けてくる。

第一、"好き" の向こう側の感情など私は知らなかった。
そうか。この気持ちこそが、"愛してる" んだ。









「折角だし、乾杯するか」

しばらく二人で身を寄せ合ったあと、ふとハイジさんが呟いた。
私たちは新たなスタートを切る。
節目のこの瞬間に乾杯というのも素敵だ。

「でも、お酒がもうない…」

たこパの時にアルコール類は飲みきってしまって、冷蔵庫の中は寂しいもの。

「ソーダが残ってただろ」

「乾杯にソーダ?」

「麦茶よりいいんじゃないか?」


カップボードから、水辺を思わせるエメラルドグリーンとブルーのグラスを取り出した。

初めてのデートの思い出が詰まった、大切なグラス。

それぞれにソーダを注ぐと沸々と炭酸が湧き上がる。
まるで小さな泉のようで見ていて飽きることはない。
透明色のソーダが、グラスの色の美しさをそのまま際立たせた。


乾杯とともにグラスの音が小さく響く。
私の耳には祝福の鐘の音に聞こえたのだけれど、胸に秘めておく。
こんな乙女チックな思考を晒すのはさすがに恥ずかしい。

「シャンパンの泡が弾ける音は、天使の拍手と言われているそうだ」

「へえ、素敵!お祝いの席にピッタリ。よくそんなこと知ってるね」

「ユキの受け売りだ」

「やっぱり。先輩、そういうウンチク詳しそうだもん。ていうかシャンパンじゃないけど?」

「この際細かいことは気にするな」

「ふふっ、そうだね」

こういう何気ない時間が好きだ。
深夜だというのに一向に眠気は来ないし、今夜は特に眠れそうにない。

「あ。返事、まだ聞いてない」

「?」

「実家、一緒に来るか?俺としては、親に会って欲しいんだが」

「行く」

即答した私に、ハイジさんは笑い出す。

「いいな、清々しくて」

「ハイジさんが生まれ育った場所に行ってみたいし、ご両親にも会ってみたいもん」

「ありがとう。さつきのご家族にも、会わせて。きちんと挨拶したい」

「うん…。きっとみんな、喜んでくれる」


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