第7章 春爛漫
二人で入ったバスルームの中で、私は逆上せそうなほどたっぷりと可愛がってもらった。
自分のことをさほど欲の強い人間ではないと思っていたのに、ハイジさんに触れられるだけで、もっと欲しいと強請ってしまう。
この人と一緒にいると、知らなかった自分を突きつけられる気がする。
朝まで一緒にいられる日は幸せ。
今夜も、抱きしめてもらいながら眠ろう。
「さつき、こっち来て」
ハイジさんがドライヤーを手にしてソファーから手招きしている。
「乾かしてくれるの?何で?」
「後戯みたいなものだ」
「…ひと言余計って言われない?」
「稀に言われる」
私は促されるまま、ハイジさんの足元にあるラグに腰を下ろした。
温風が吹き出すとともに髪がなびく。
根本から優しく掬って風に乗せられて、なんだか擽ったいけれど心地いい。
ハイジさんは私を甘やかせる天才だ。
「綺麗な髪だな、さつきは」
「そう?私はハイジさんの日射しで傷んだ髪も好きだよ」
「褒め言葉か?それは」
「もちろん。真剣に選手と向き合ってる証拠だもん」
陽の光の下で酷使した髪の毛に、日焼けした肌。
時に陸上バカだと揶揄することがあっても、そんなハイジさんの姿だって大好きなのだ。
乾いたあとまでケアは完璧。
ブラッシングで全体を整えてくれる。
「ハイジさん器用だから、ヘアアレンジもできちゃいそう」
「ヘアアレンジ?女性の?」
「うん。動画でも検索できるよ。私もよく見ながらやってるんだけど。特に子ども向けだとね、可愛いアレンジいっぱいで…あ!もし女の子が生まれたらハイジさんに…」
サラリと言いきればよかったのに、妙なことを口走った自分に驚いて言葉を切ってしまった。
深い意味なんてない。
岩倉先輩がパパになったという、おめでたいニュースの影響だろうか。
「私たちの間に子どもが生まれたら」なんて匂わせるようなことを口にした事実に、後悔が押し寄せる。
重い…?引かれた…?
「夏休み、実家に帰るんだ。一泊しかできないが」
「え?…ああ、ハイジさんの家、出雲だよね。ご両親も喜ぶんじゃない?」
話をかわされたのかも。
全く別の話題を持ち出されたことが気になりつつも、相槌を打つ。
「一緒に来る?」