第7章 春爛漫
「先輩いいパパになりそう。厳しそうだけど」
「いや。ユキの奴、案外子どもを甘やかすタイプかもしれないぞ」
「どうして?」
「ユキさん歳の離れた妹がいるんですけど、すごく可愛がってるんですよ」
「へえ。意外かも」
「逆に舞ちゃんの方が厳しく育てそうな気もするな」
先輩の奥さんは写真でしか見たことがないけれど、綺麗で優しそうな雰囲気の女性だった。
ハイジさんたちが箱根に出た年に、陸上部のマネージャーをしていたそうだ。
その頃からのお付き合いを経て結婚だなんて、憧れてしまう。
「ねえ、カケルくんは彼女いるの?」
「…いませんよ」
「でもモテるよな」
「そんな訳ないでしょ」
「陸上雑誌の "実力派イケメン選手" の枠でも紹介されてたもんね」
「あの写真はよかったよな。流し目がイケメン度をアップさせてて」
「止めてください!!あれはカメラマンの人に言われてやむなく…」
「わかるー!あの流し目ね!あれで落ちた女子がどれだけいるか!」
「もういいです」
恥ずかしがったり拗ねたりするカケルくんが可愛くて、ついついからかってしまう。
ハイジさんがカケルくんを可愛がる理由は、ハイジさんの中の母性本能(?)がくすぐられているせいだったりして。
しつこくし過ぎたせいか、遂にはカケルくんにそっぽを向かれてしまった。
やり過ぎた…。反省。
和やかに過ごした時間は、夜も深くなった頃お開きを迎えようとしていた。
気づけば時計の針は終電間近。
ハイジさんは元々泊まる予定だったから時間を気にすることもないけれど…。
「電車、間に合う?」
「走れば何とか」
酔ってソファーで眠っていたカケルくんは、起こしたと同時にバタバタと帰宅の準備をしている。
もう少し早く起こしてあげればよかった。
「ねえ、ハイジさん。カケルくんにも泊まってもらおっか?」
「え?いや、大丈、」
「カケルなら終電の時間くらい余裕で間に合うさ。な?」
「近…」
怖いくらいの笑みでカケルくんに接近し、圧をかけるハイジさん…。
「最悪走って帰ることもできるもんなぁ、カケルなら。ここから家まで走ったらどのくらいのタイムが出せるんだろうな。試してみるか。ていうか帰れ?」
「わかってますよ!邪魔はしませんってば!じゃあ、ご馳走さまでした!」