第7章 春爛漫
笑うところだった?
ツッコミを入れるところだった?
小声でカケルくんに確認作業するが、返事は素っ気ない。
いまだにハイジさんの生態には不思議がいっぱい。
「まだボケる歳じゃないぞ」
……うん、ここに岩倉先輩がいたら、スパーンと切れ味のある返しをしてくれるんだろうな。
「因みに聞くけど、ハイジさんが言う不器用って、どの部分を言うの?」
「ゲームは苦手じゃないか」
「あ、確かに。私がハイジさんに勝てるものってゲームくらいしかないや」
「太鼓の達人は凄かったなぁ」
「まだ言う!?」
「カケルも一度見せてもらうといい。まず構え方からして他の客とは別物だ」
「私が嫌がるの知ってて言ってるでしょっ!」
あの夜の奇行は私を弄るネタみたいになっている。
いい加減止めてほしい…。
「まさかまさか。恋人の勇姿をぜひ可愛い後輩にも見せてやりたいと思ってな」
「半笑いだし」
「元々こういう顔だ」
「ハイジさんとゲーセンなんて行くんじゃなかった」
「楽しかったじゃないか。また行こう」
「もう絶ーっ対、ハイジさんとは行かない。行きたいならカケルくんと行けば?」
「カケルと行ったってつまらないだろ」
「わっ、酷!カケルくん、これは怒ってもいい!もっと他に言い方が、」
「あ…っ、あの!!今ユキさんからLINEで!!」
私たちの会話の合間に、挙手をしたカケルくんが大きな声を挟んだ 。
「赤ちゃん、生まれたって!!」
反射的にハイジさんと顔を見合わせ、一瞬息を呑む。
そして…
「やったなぁ!!」
「先輩、ついにパパかぁ!!」
驚きと歓喜の声が同時に上がる。
実は今日のたこパには、先輩も誘うつもりでいた。
ところがハイジさんに連絡してもらったところ、奥さんが産気づいたとかでそれどころではなくなったのだ。
「もう一度乾杯するか!」
「さんせーい!」
一気に祝杯ムードに変わり、私たちはその夜、無礼講とばかりにお酒を楽しんだ。