第7章 春爛漫
「わぁっ…!カケルくん布巾!布巾取って!」
「ちょっ、さつきさん!?何してるんですか!ソーダは開けるの待ってって言ったじゃないですか!」
「忘れてたんだから仕方ないでしょ!」
開栓と同時にテーブルの上に吹き出した泡しぶきを、慌てて拭う。
冷蔵庫から取り出した直後、ペットボトルのソーダを派手に落としてしまったことを忘れていた。
「汚れなかった?」
「大丈夫です」
「……二人とも」
カケルくんとあたふたしている横から、神妙な声色をしたハイジさんに呼ばれる。
「「はい?」」
「いつの間に名前で呼び合う仲になったんだ?」
「「…ハイジさんの呼び方が移っちゃって」」
元々ハイジさんとカケルくんは大学時代のチームメイト。
プライベートでの親交もあり、家を行き来することも珍しくないらしい。
私たちの交際が始まったことで、カケルくんも交えて飲みに行く機会が何度か訪れた。
その延長で、今夜は私の家に二人を招いてたこ焼きパーティーの最中だ。
ハイジさんの問いの答えだが、名前で呼ぶようになったのがいつからかなんて、正直言ってはっきり覚えていない。
トレーニング中や施術中こそお互いに苗字で呼び合い、プライベートとの線は引いているけれど。
最初は苗字と名前でごちゃまぜに呼んでいて、そのうち自然と名前呼びにシフトしていった…ような気がする。
「陸上以外のことには意外と不器用で可愛いから、いつの間にかなんとなく名前呼びになっちゃったんだよね」
「可愛いとか止めてください…」
「だってもっとクールなタイプかと思ってたんだもん」
「何ですかそれ」
「俺も意外と不器用で可愛いところもあるんだが」
顔は大真面目。
たこ焼き器の中でジリジリ焼けているたこ焼きを眺めながら、ハイジさんが主張した。
どうしたどうした?
「何のアピール…?」
「さぁ?あ、もうひっくり返していいんじゃないですか?」
カケルくんがクルクルたこ焼きを返していくと、きつね色に変わった半球が現れる。
「もしかして、ボケたのかな?」
「俺に聞かないでくださいよ」