第6章 月夜に色づく ※
ハイジさんが食事の準備をしてくれている間に、シーツを剝して洗濯をさせてもらう。
洗濯なんて気にしなくていい、と笑っていたけれど、汚したものをそのままというわけにはいかない。
洗濯機が回っている間に出来たての朝食を食べ、食器の片付けを終える頃には洗濯完了のメロディーが鳴った。
ベランダに干した途端、春の爽やかな風が布地に当たりシーツをふわりと舞い上がらせた。
「さて。これから何をしようか」
「あ、スマホ買いに行かなきゃ!」
例の男に叩き落とされ壊れてしまったスマホ。
電源を触ってもピクリとも反応がないらしい。
購入して以来何年も経っているため、修理に出すよりは新しいものを買おうと昨夜話していたのだ。
「スマホなぁ…」
「…行かないんですか?」
「明日の昼休みにでも行くよ」
「え?でも誰かから連絡があったら困るんじゃ…」
「一日俺と連絡が取れないくらいで困る人間はいない。仕事の連絡があったとしても、明日直接聞けばいいしな」
そんなものだろうか。
丸一日休みがあるのだから、スマホを買いに行くくらいしたらいいのに。
あ…違う。
もしかして、丸一日休みがあるからこそ、時間を空けてくれた?
そんな風に思う私は、自意識過剰……?
「そうそう。貰い物の苺があったんだ。デザートに食べようか」
キッチンで苺を洗うハイジさんに歩み寄る。
瑞々しい赤い果実は、今が旬だけにとても美味しそう。
「ほら、味見」
艶々で真っ赤なそれを、ひと粒差し出してくる。
「いただきます」
言われるがまま口を開き、もぐもぐと頬張った。
「美味しい…!すっごい甘い!」
「本当だ。美味いな」
ひと粒ずつつまみ食いしたあとは、二つ並んだ透明な小鉢に苺が盛られていく。
ハイジさんはわざわざ何も言わない。
今日という日を、私と過ごすための一日にしてくれたこと。
愛おしさが胸に満ちてきて、目の前の体に抱きついた。
「どうした?」
「ううん…」
「あ、わかった。多く盛った方をくれってことか」
「そんなに食い意地張ってない」
「んー…わかった。欲情してるんだろ」
「そんなワケないでしょ!?」
絶対楽しんでる!
肩が震えてるもん…。
半分呆れかけた時、私の体は温かなハイジさんの腕に包まれる。
「甘えてるんだな」
「……そう。甘えてるの」