第1章 One Night…?
「まあ、俺は楽しかったしいいんだけど…」
そう前置きして、清瀬さんは真剣な声で続ける。
「男の前で酔って寝てしまうなんて感心しないな。相手によっては、襲われてもおかしくない」
「……」
正論過ぎて返す言葉もない。
たまたま清瀬さんは良識のある人で、私を部屋で寝かせてくれただけで終わった。
けれど、そうでない人だったら、無理矢理……
「そう…ですよね。仰るとおりです。これからは気をつけます」
「わかってもらえたならいいんだ」
厳しかった表情は、一変して柔らかくなる。
「さあ、帰ろうか」
締めるところは締め、後に尾を引かない。
若手にも関わらず優秀なコーチだと噂されているのは、こういう側面も含めてのことなんだろうな。
なんて思っていた矢先、清瀬さんはまた今朝の話を掘り返し始めた。
「そうそう。俺が風見さんと付き合いたいという気持ちでいることは、忘れないでほしい」
「え…?」
「昨夜の事実もはっきりさせたことだし」
自信に満ちた笑みで私を見つめる清瀬さんは、いっそ清々しい声で告げる。
「風見さつき。改めて、今日から君を口説き落とす」
……あれ?
私、清瀬さんの家でお断りしたよね?忘れちゃった?
「あの…朝も言ったとおり、気持ちは嬉しいんですけど。今はまだ、恋愛は無理なんです」
「 "今はまだ" ということは、いずれ恋愛をしたいという気持ちがあるんじゃないのか?」
「……」
そうなのかな…。
いやいや、先のことなんてとても考えられない。
「俺のこと、男としては見られない?」
「そんなことは…ありません、けど…」
男性として特に難がある人ではないと思う。
昨夜、手を出せる状況だったにも関わらず何もしなかったという事実が、それを証明している。
「それなら話は単純だ。俺は風見さんに振り向いてもらえるよう努力する」
「え!?だからっ…」
「もちろん、風見さんの気持ちを無視するつもりはないよ。だからまず、1ヶ月間友人関係ということでどうだろう 」
思わぬ提案だった。
こちらの都合などお構いなしに、グイグイ踏み込んで来る気配すらしていたのに。
しかも、1ヵ月間という期限を提示してきたということは……。