第5章 一等星
「あの時思ったんだ。
あぁ、この子、いいなって。
胸の芯に人を慈しむ心を持った風見さんのことが、好きだと。
もっと知りたいと。
この子の人生に立ち入りたいと、そう思った」
そんな風に、私を想ってくれたの……?
記憶が真っ白なのが悔やまれる。
私はあの夜、清瀬さんからどんな表情を、どんな声を、どんな言葉をもらったのだろう。
「いつか、ご家族に会わせてくれる?
約束したい。
さつきのことをこの先ずっと、大切にします──って」
「……はい」
あの夜の心残りはあれど、これからの清瀬さんとのことはほんの些細な瞬間でも胸に焼きつけたい。
『一緒にいて幸せだと思える相手は、きっといる』
曙の空と春の海を眺めながら、清瀬さんは言った。
あなただったらいいな…と、心の奥底ではそう願っていた。
出逢えてよかった。
私を待っていてくれて、ありがとう───。
「少し喋りすぎたかな。例の男のことといい、今日は色々疲れただろ?先に風呂入っておいで」
清瀬さんは、空になった二つのグラスを手にして立ち上がろうとする。
「いえ!清瀬さんが先にどうぞ。面倒事に巻き込んだ上、ご飯まで作ってもらったんですから」
「……ずっと気になってることがある」
「何ですか?」
「一度は名前で呼んでくれたのに、いつの間にか "清瀬さん" に戻ってる」
「あ、癖で」
「名前で呼んでみて」
「改めて呼ぶとなると緊張する…ので、追々…」
「 "風見さん"。バスタオルとドライヤーは出してあるから、使ってもらって構わないよ」
「……」
「どうした? "風見さん"。遠慮しなくていいぞ?」
「好きな子には意地悪したくなるタイプなんですね、"清瀬さん" は。そこまで言うならお言葉に甘えてお先に…、きゃ…っ!」
腰を浮かせた私の体は、背後から清瀬さんに捕獲される。
「強情だな、君は」
別の言い方をすれば、ただ抱きしめられているだけ。
耳元に唇を近づけて、甘い声で催促する。
「さつき?」
「待っ…、心の準備が…」
「照れてるのか、このくらいで。顔が真っ赤だ」
「もう…!面白がってるでしょ…」
「いいや?可愛がってるんだよ」