第5章 一等星
「このまま俺の家、来る?」
「え…?」
「一人にするのは心配だし。ネットカフェに泊まるくらいなら、うちに来れば?」
「…いいんですか?」
「もちろん」
自宅に帰って一人になることを考えると、恐怖を覚える。
清瀬さんがそばにいてくれたら心強いし、何より離れがたい。
ここは素直に甘えることにした。
「さつきが元気になれるもの作るよ」
「何でも?」
「何でも」
「じゃあ、生姜焼き食べたい」
初めてお弁当を作ってきてくれた日に食べた、生姜焼き。
清瀬さんのごはんはどれも美味しいけれど、あの温かな味がまた食べたくなりリクエストする。
「いいよ。スーパーに寄って帰らなくちゃな」
夕飯の食材を買って彼の家に向かうなんて。
本当に、恋人同士になれたんだ……。
大きな痛手から半年。
あの頃の私には、想像もできなかったはず。
清瀬さんといると、干上がった心が潤いを帯びていくのがわかる。
忘れ得ぬ過去も私の人生の一部分だと、今なら受け入れられる。
またここに来られるなんて、思ってもみなかった。
間取りはワンルーム。
ベッドとテレビがベランダ側に設置されていて、本棚には本がぎっしり。
テーブルに座椅子。
余計な雑貨等は置いていないところが清瀬さんらしい。
壁に掛けられたハンガーには、緑色の半纏がぶら下がっている。
「わ、半纏!懐かしい!おばあちゃんが作ってくれたなぁ」
「俺も一緒だ。東京に出てくる時、祖母が持たせてくれたんだ。暖かくなったしもうそろそろ仕舞ってもいいんだが。毎年冬はこれとこたつが大活躍だよ」
「あったかいんですよねぇ。私も来年の冬は実家から持ってこようかな」
半纏を着て、こたつで緑茶を啜る清瀬さんが目に浮かぶようだ。
流行りのものより、古くからある良いものを大切にして生活しているイメージ。
夕飯が出来上がるのを待つ間にも、清瀬さんはあれこれと小皿を出してくれる。
ちなみに、最初から図々しく座っているわけでは決してない。
もちろん手伝うつもりで声を掛けた。
けれども、"今日は色々あって疲れてるだろうから" と断られたのだ。
まさか私の料理の腕を疑っているわけではないよね…?
いやいや、清瀬さんの純然たる優しさに決まってる。