第5章 一等星
「───清瀬さんが、好きです」
二人の関係が途絶えてしまってる合間にも、心は募っていた。
口にしてしまったら最後、溢れて止まらない。
清瀬さんの反応を確かめるよりも早く、目の前の体に手を伸ばした。
私を、受け入れて。
しがみついた体は温かくて心地良い。
清瀬さんは二つの腕で、私を抱きしめてくれる。
「好きだよ、俺も」
耳元で囁く声に、体の芯が震えた。
元彼に遭遇した夜も、こうして抱きしめられた。
男女の触れ合いに発展しそうな雰囲気を醸し出しながらも、あの時の清瀬さんは何もしなかった。
親しくなった端から、理性的で信頼の置ける人。
そんな節度のある清瀬さんを、好きだと思う。
その反面、清瀬さんの本能を覗いてみたい。
首をもたげてみると、清瀬さんも私から体を浮かせる。
言葉を交わさなくても求めていることは同じだとわかり、瞳を閉じた。
大きな掌が後頭部を撫でてゆく。
刹那、ゆっくりと唇が触れ合う。
こんなにも近くに清瀬さんを感じたのは、初めて。
通じ合えた安堵と、それとは真逆の唇の熱が誘う高鳴り。
そっと、丁寧に、触れた場所が啄まれた。
「好きだ」
再び囁かれた言葉とともに、さえずる唇の音。
「好…、んっ…」
「好きだよ」
返そうとしたところで、私の声は清瀬さんのキスに飲み込まれる。
繰り返される口づけの隙間を縫うように、清瀬さんは何度も愛の言葉を奏でた。
「清瀬さん、大丈夫。もう、十分伝わってる…」
私が拗ねたりしたからだ。
こんなにも "好き" をくれるのは。
きっと私を不安にさせないように。
幸せだ……。
今、心が清瀬さんの愛情で満たされている。
「さつき」
キスが止んだかと思えば、両頬を包まれ、瞳に捕まった。
「大好きだ」
真剣な声でたったひと言そう告げたあと、双眸が何度か瞬く。
「子ども染みた言い方だっただろうか……」
自分で口にしたのに、心なしか戸惑った顔をしている。
こんな清瀬さん、初めて見た。
そんなことを気にするなんて、可愛い人…。
「私も。大好き、ハイジさん」
愛おしさが極限まで達し、私の方からキスをする。
一瞬驚いた表情を見せたもののすぐに笑みに変え、清瀬さんはもっと強く私を抱きしめてくれた。