第5章 一等星
「もうサプライズどころじゃないって彼も慌ててたよ。已む無く白河さんにネタばらしして、無事仲直りしたらしい」
そんな事情があったんだ…。
それなのに、会話の一部分だけを耳にして誤解して、勝手に落ち込んで清瀬さんを避けて。
私のしたことって……
「ずっと話をしたいと思ってた。この前のこと」
「……はい」
「風見さんに対して "好き" だと告げたことは、確かになかった」
「……」
「君に忘れられた、最初の夜以外には」
「…え」
「 "風見さんのことを好きになったから付き合ってほしい" ───初めにそう言ったんだが」
殴られたような、この上ない程の衝撃が加わった。
二の句が継げない。
沈黙してから数秒、真っ白になった頭を何とかして揺り起こす。
「……嘘でしょ」
「嘘ではない」
「いえ、そういう意味じゃなくて!酷すぎる…。悪いのは私なのに清瀬さんにあんな態度とって、本当にすみませ…」
「謝らなくていい」
混乱する思考を立て直し必死に謝罪を伝えようとするが、それは遮られた。
「大切な言葉なのに、一度きりしか口にしないなんてどうかしていた。しかも風見さんに言われるまでそれに気づかなかった。
自己嫌悪に陥ったよ。言葉で伝える努力を怠るような人間だから、風見さんに愛想を尽かされたのかと」
「愛想を尽かすなんて!清瀬さんは悪くないです!ちゃんと気持ちを伝えてくれていたのに覚えていないなんて、失礼にも程がある…。本当に私って…」
最低で、最悪。
最初から最後まで、全て私に非がある。
傷つきたくないばかりに、真実を知ろうともしなかった。
清瀬さんはいつだって私と向き合おうとしてくれていたのに。
「それはいいんだ。でも、泣かれるとは思わなかったな」
「やだ…言わないでください…」
「泣いてただろう?」
「……」
あれは…清瀬さんのことを好きだからこその涙で…
ふわりと、頭に温かいものが乗せられた。
「泣かせてごめん」
清瀬さんが、私に触れている。
無闇に体に触れてくる人じゃない。
だからこそ、清瀬さんの気持ちが掌から、瞳から、伝わってくるようで……
「君が好きだ」
好き―――。
初めて、清瀬さんの声で聞けた。