第1章 One Night…?
確かに清瀬さんは器が大きいというか、精神的にいつも安定しているイメージだ。
多少のことで動じる人ではない。
それはこれまでの仕事ぶりと、今朝の態度からしても明白。
そんな彼に反し、私ははっきり言って動揺しまくっている。
今日会った時、どんな顔をしたらいいのだろう。
そんなことを考えながら、淡々と仕事をこなした 。
トレーニング後の施術は、リハビリ機器が必要ならうちの施設で行う。
しかしそうでない場合、私たちの方から選手のところへ赴くこともある。
今日は、清瀬さんのチームが練習するグラウンドへ訪ねる日だ。
「どうですか?まだ違和感は続いてます?」
「そうですね。いつも10kmを過ぎたあたりから膝が引き攣るような感じがして…」
「少し電気治療も取り入れてみましょうか。損傷からの回復を促してくれますから。清瀬コーチからも聞いてると思いますけど、くれぐれもトレーニングメニューにないことはしないでくださいね」
「……はい」
蔵原くんはやけに間を空けたあと、渋い顔で頷いた。
「思うように走れないのはもどかしいかもしれないが、結果的には近道になる。風見さんの言うことをよく聞いて…」
「わかってます。今そう返事したでしょう?」
「ああ、すまない。カケルは万年反抗期みたいなものだったからなぁ。つい」
「いつの話してんですか!」
聞くところによると、この二人は学生時代のチームメイトなんだとか。
その名残なのか、蔵原くんは清瀬コーチを前にすると幼さが顔を出す。
「お疲れ。先に上がっていいぞ」
蔵原くんは一足先にグラウンドからいなくなる。
そうなると、ここには清瀬さんと私の二人きり。
「風見さん」
「はい」
「渡したいものがあるんだ」
「何でしょう?」
昨日の今日で、一体何を…?
清瀬さんはジャージのポケットから財布を取り出して、何かを引き抜いた。
「はい、これ」
「これ、は…?」
「プリクラだ」
確かに、プリクラだ。
映っているのは、私と清瀬さんっぽい人物。
やけに黒目の大きい、エイリアン化した私たち。
「えー…っと。プリクラを、撮ったんです?昨日」
「撮ったんだね」
清瀬さんは肩を震わせて、声を上げるのを我慢しているように見える。