第1章 贖罪のサンタクロース/フロ監
濡れた瞳を歪に歪めた少女が、大きく首を左右に振って否を選択する。
「じゃぁもう離してやれねーね」と言ったフロイドが、ユウの前に自身の大きな手のひらを見せた。
マジカルペンでそこをトンと叩けば、眩しい光と共に現れる二つのシルバーのリング。
「オレからのクリスマスプレゼントちゃぁんと受け取ってね」
ユウは戸惑いながらも、自然と喜を宿してしまっていた瞳でそれを見て、瞬間眉を曇らせる。
それもそのはずだ。ユウにはこのペアリングを付ける指がないのだ。
こっちはオレのねー。とフロイドが持ち上げたのは飾りの付いていない、リングの内側にダイヤが埋め込まれたシンプルなリング。残ったもうひとつの指輪は、外側にダイヤが埋め込まれた女性用の物だ。
「これねぇ、元々一個だったダイヤを二つに割ったやつなんだって。二つ揃ってやっと一個になれんだよー」
そんな素敵な解説を、ユウはとてもじゃないが聞いていられなかった。
上機嫌で自身の指にリングを嵌める彼の意図が分からず、僅かに苛立ちすら覚えてしまう。
「あの、フロイド先輩」
「それで、こっちが小エビちゃんのね」
残っていた指輪を持ち上げるその軌道を無意識に追ってしまう。
小エビちゃんの。と言われたそれが、既にひとつ指輪が嵌められている彼の薬指にすんなりと入っていったのだ。
その様子を数秒見て、思わずユウは「は」と声をあげた。
困惑で何度も瞬きを繰り返すユウにフロイドは、ふはっ、と笑いを吹き出す。
やっぱ小エビちゃんかぁいいねぇ、と小さな唇に触れるだけのキスを落とした。
「俺の左手。これは小エビちゃんの左手だよ。この先もずっとずっと小エビちゃんのもんなの。これはその証」
あぁ成程。ユウはこの一年間の想い出達を浮かべていた。
いつからだったか、フロイドは自分の左手は小エビちゃんの左手だよ。と言い始めたのだ。
だからいつでも呼んでいいし、好きに使っていいんだよ。と。
彼のそれは私のだから、指輪も先輩の左手に。
なんだか妙に納得してしまって、そうしてふふ、と笑いが込み上げて。涙が溢れた。
「本当にいいんですか。毎回私の腕が無いって現実、突きつけられるんですよ」
「だから苦しめたらいいじゃん」
「多分、大変ですよ。出来る事もまだまだ限られてるし」