第1章 贖罪のサンタクロース/フロ監
誤算であった。一年後には罪を償い終えて、晴れやかな気持ちで日々を過ごせるに違いないと考えていた自分自身を、酷く愚かだったと本気で思い始めるまでになってしまったのだから。
毎日少女の生活を助けて、愛の言葉を囁いて、何度か体を重ねて。
一年後が来たってオレ無しじゃ無理じゃん、なんて胡坐を掻いていたのに。
もう一人で大丈夫だと。フロイドリーチはいらないのだと、屈託のない笑顔で言われてしまったのだ。
「小エビちゃん、もうオレのこと好きじゃ無ぇの」
少女は眉尻を下げただけで何も答えなかった。
左の袖口を握るフロイドの手に右手をそっと添えて、離してください。と促す。
脱力するように離したその手を少しだけ見つめて、くるりと彼に背を向ける。
「さぁて、片付けなくちゃ」
明快な声音であるのに、言葉尻が震えている。
それを見逃さなかったフロイドは少女の右手を掴んで大きな体の内に引き込む。
バランスを崩してソファに座ったユウを、失った腕ごと後ろから抱き締めた。
「泣いてんじゃん、滅茶苦茶無理してんじゃん。何で離れなきゃなんねーの。何で終わりにすんの。オレ離れる気無いんだけど」
少女の肩口に顔を埋めれば、チャキリと鳴った三連ピアスの音。
それが合図だったかのように、小さな肩が震えだす。
「もういいんですよフロイド先輩。贖罪は終わりです。身も心も自由なんですよ」
「オレがまだ終わらせたくないって言ったら?」
「……だってフロイド先輩。私と居たらずっとツライままじゃないですか。ずっと自分を責め続けるじゃないですか。大丈夫ですよ。ちゃんと一年間、償ってくださっ」
ぐいと体を向かい合わせにされて、言葉を止めるようにユウの唇に彼のそれが重なった。
涙が混ざってしょっぱくなった唇を何度も何度も食まれて、口の中を長い舌がねっとりと這っていく。
ふ、と熱に浮かされたように濡れた吐息が漏れ始めた時、名残惜しそうに唇が離れて行った。
「小エビちゃんさぁ、人魚の執着舐めてね?やったのはオレなんだから苦しめてやりゃいいじゃん。オレ、この一年で小エビちゃんのこと番にするってもう決めちゃったよ。オレのこと殺さねー限り離れてやれねぇよ」
ほら抵抗しねぇから、今なら小エビちゃんでも殺せるよ。フロイドはそう言って、ユウを抱き締めていた両手を横に広げる。