第1章 贖罪のサンタクロース/フロ監
フロイドは何とか手を差し出して、ゆらゆらと揺れる少女の左袖を握った。「なにそれ……」辛うじて出た声音が、自分でも分かる程に情けない。
確かに最初は贖罪のつもりだった。
一年前、実習中に突如現れた魔物と戦闘になった際。ジェイドが瀕死状態になってしまったのだ。
ほとんど枯渇してしまった魔力、そして兄弟の命の危機。
それらの要素はオーバーブロットに至るに充分すぎたのだ。
そこからまともに戻るまでの記憶は曖昧だが、学園の生徒や先生総出で何とか食い止めて貰ったとのこと。
フロイド自身も、瀕死状態だったジェイドも助けられて事なきを得たのだった。
異世界から来た少女の利き腕を、暴走したフロイドが放った魔法で肩口からごっそりと吹き飛ばす以外は。
毎日痛みと不自由さで悶え苦しむ少女に何も出来ない。全て自分の責任。そんな思いに食い潰されそうだった。
利き腕を失った少女に何度謝罪したって、心臓を潰されるような苦しみは取れなくて。
避けられなかった自分が悪い、気にしないでください。と毎度少女が許してくれた所で、自責の念が消えることは無かった。
そんなある日、少女から提案されたのだ。
私、フロイド先輩が好きなんです。一年間で構いませんので、私の恋人になってください。それでチャラにしましょう、と。
何の色気も雰囲気も無い告白だった。面白い子だとは思っていたが別に好きだとか、そんな恋愛感情は持ち合わせてはいなかった。
けれども、都合が良いと思った。
ずっと心に巣食う罪の意識を、こうして形にして償えるのなら楽になれると思ったからだ。
一年前のクリスマス。フロイドはなんの迷いも無く差し出された右手を取った。
誤算であったのはそれからだ。
失くした利き腕にまっすぐ歩く事ですら苦戦し、痛みで眠れぬ日々。
それでも少女は弱音を吐かずに懸命に生きるどころか、毎日笑顔を絶やさなかったのだ。
痛かっただろうに、苦しかっただろうに。弱音を吐いてこの状況を作り出したフロイドを責めたかっただろうに。
片腕の少女はそれをしなかった。
程なくしてフロイドは気付いていく。少女はその傷付いた心と体を抱えながら、フロイドの心を救う事だけを考えていたのだと。
ユウという気丈な少女に惹かれ、淡い感情を抱いたのはそれからすぐだった。