第1章 贖罪のサンタクロース/フロ監
シャンメリーと薄暗くした部屋とソファ。その中で身を寄せ合いながら映画を観ていた。
フロイドの肩は高すぎるので、腕に頭を寄せて彼の温もりを記憶する。
気が付けば感傷に浸るようなBGMでエンドロールが流れ出していた。時計の針はそろそろ日を跨ごうとしている。
「ねぇフロイド先輩。ありがとうございました」
「……ん?なにが」
いつもよりも低くなった声で問うフロイドが、小エビの膝にあった右手を無遠慮に掴んでギュッと握り締める。
フロイドには心に引っ掛かっている不安だったことがある。少女を繋ぎ留めたくて固く小さな手を握りなおした。
少女はそんな彼にふるりと睫毛を震わせて、その手を繋いだまま立ち上がってフロイドの前に立った。
綺麗なオッドアイをぐっと細めた彼に、にっこりと笑顔を向ける。
「フロイド先輩に小エビからクリスマスプレゼントがあります」
「プレゼント?」
疑問符を浮かべた彼だったが、繋いでいた手を無理矢理離されて瞠目する。
何を……。フロイドは問おうとして、次に出てきた言葉に喉が詰まって声が出せなくなった。
「フロイド先輩を自由にします」
少女が言って、ゴーンゴーンと日付を跨いだ音が時計から鳴り響いた。
少女はフロイドを鎖から解放したとでも言うように、さっきまで繋いでいた右手を体の横に大きく伸ばす。
少女の左側で、干した洗濯物のように揺れる袖口がフロイドの視界の端に見えた。
ギシリと鋭利な歯列を噛み締める。
「一年間、私の恋人になって下さってありがとうございました。とっても楽しかったです。ですが、今日からフロイド先輩は自由です。もうちゃんと、罪は償い終わりました」
待って。声に出そうとするのに、詰まる喉がそれをさせてくれない。
何てことないかのようにつらつらと述べ続ける少女に、じわりと滲んだ額の汗で髪が張り付いたのが分かった。
「御覧の通り、フロイド先輩のお陰で何でも一人で出来るようになりました。アズール先輩の魔法薬に助けてもらってもう完全に痛みはありませんし、イデア先輩が義手の準備をして下さってるそうです」
澄んだ空のように笑う少女は、くるりとその場でターンする。肩口で切り揃えられた黒髪がふわりと円を描いてお行儀よく元の位置に戻っていった。一カ月ほど前までは片腕だけでバランスが取れず、出来なかったそれだ。