第6章 凪の情景/アズ監
運だとか現実的ではない妄想だとか、それらを嫌うアズールとは縁がない本棚である。
が、異世界へ帰る方法を探していたユウにとっては毎度お世話になっていた場所。
図書館へ来た際は、必ずここへと足を運んでいた。
勘違いだろうか。自意識過剰ってやつだろうか。
着いた教室の窓際の席。息を飲んで、その席に腰掛ける。
熱を帯びる目蓋をギュッと一度閉じてから、彼がこの席に執着したであろう理由へと目を向ける。
運動場。その端の方が少しだけ見える。
あぁ、やっぱり。胸の奥で芽生えた確信の芽がどんどんと葉を広げていく。
ユウにとって飛行術の授業は、肩身が狭い科目のひとつだった。
ホウキで空を飛ぶには魔力が必須で、全面的にグリムに頼ることしか出来ないのだ。
ユウは飛行術の授業を受ける際、端の方で受ける事が多かった。
後ろめたさから来る無意識の行動だった。
まだまだ魔法士としては未熟であるグリムにとって、人を乗せてホウキを操るというのは難易度が高かったようで、よく落下して二人で痣を作っていた。
だが不思議なことに、何故か運動場の端の方で授業を受けている時だけは落下を免れることが多かったのだ。
グリムは「オレ様は出来る男なんだゾ」と胸を張っていたが、明らかに別の力が加わったような浮遊感があった事を思い出す。
いつも見ていてくださったんですね。緩み切っている涙腺が熱くなる。
聞きたい。ずっと貴方の心の中に私は居たんですか、と。もしも貴方と一緒にいたいですと伝えたら、帰るなと言ってくださいますか、と。
「アズール先輩……」
「何でしょう」
ガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、息が止まる。幻聴にしては声が鮮明だし、暗い教室のドアに立つ影がはっきりし過ぎている。仄暗さの中でも柔らかさが分かる銀の髪は、見間違えようも無い彼のものだ。
「なんで、アズール先輩……」
「貴女が呼んだんでしょう。僕は返事をしただけなのですが」
ユウの元へと歩き始めたアズールを、差し込んでいた月明かりが照らす。
彫りの深い顔立ちに陰影を濃く刻む月明かり。
そこに浮かび上がるのはいつも通りの無機質な表情だった。
「感心しませんね。こんな時間にこんな場所で何をなさっていたんですか」
「あ、いや……最後に、景色を、見たくて」
無機質なそれに怖気付いて、アズール先輩が見ていた、とは言えなかった。