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600秒の夢境【twst短編集】

第6章 凪の情景/アズ監



 咎められるような言い草に肩を小さくして、膝の上に置く拳に力を込める。
 シンと静まり返る暗い教室。いたたまれなくなったユウが僅かに裏返った声で「ア、アズール先輩は何を?」と問う。
「僕も……貴女と似たようなものですね」
 窓の外の運動場に視線を向けながら言ったアズールの口元がほんの少しだけ緩んだように見えた。
 フロイドやジェイドと並んでいると小柄に見える彼も、更に小さいユウからは見上げる形になる。
 青みの強いグレーの瞳に影を作る長い睫毛、通った鼻筋に主張しすぎない上品な唇。その唇の下にある小さなホクロが妖艶さを助長させている。
 彼の性格同様、計算され尽くされたような見目に視線を奪われる。
 いつも貴方の心に私はいたんですか。その一言は脳内では何度も繰り返されているのに、どうしても音にならない。
 代わりに出てくる音は、この空気を取り繕うように。自身の心の内を隠すように口を動かし続ける物だった。
「そ、そういえば!アズール先輩ですよね。飛行術の授業でいつも助けてくださってたの。ありがとうございました。あとすみません、私全然気が付かなくて。少し考えれば誰かが魔法で落下を防いでくれてるって気付けるはずなのに。ほんとにこういうことには疎くて嫌になっちゃいます、ははっ。でもアズール先輩ってやっぱり凄いで」
「少し黙りなさい」
 話に夢中で全く気が付かなかったが、目の前にはアズールの顔。見惚れるような顔が余りにも近くて、喉がヒュッと鳴った。少しでも動けば触れ合ってしまう唇に、指先ひとつですら動かせない程に体が硬直する。
 見逃してやろうと思ったのに。形のいい唇から低く紡がれた音は確かにそう聴こえたが、ユウの理解が追いつかない。
 ぐるぐると回る脳が言葉を理解する前にアズールの骨張った手が頸を包み込み、そのまま彼の胸元へと抱き込まれるものだからとうとう思考回路がぶっ壊れる。
「ア、アズ……」
「貴方……、ユウさん。僕がここから手助けをしていた事、お気付きになられたんですよね。その対価を頂くつもりは無かったのですが」
 背中に触れるアズールの手が僅かに震えていることに気付いたユウが目を見張る。腕の中から見上げた彼の顔が余裕の無いそれで、ユウは思わず「え」と声を漏らした。
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