第6章 凪の情景/アズ監
ユウは魔法という物が存在しない異世界で生まれた異世界人であるから、ユウにとっては無いことが当たり前だがこの世界では違う。
生き物は異物を嫌う。それは産まれ持った性質上仕方のない事だと理解していたユウは、生き辛さこそ感じていたもののそれが不公平だとは思わなかった。
ツイステッドワンダーランドに飛ばされ、状況を理解した際にその点も勿論理解していた。
「お前マジで魔法使えねぇのー? ヤバくね?」
何度もこういう"排除"を受けてきた。異物を恐れる者は弱いのだと、それも理解している。
「はぁ、まぁ、使えないですね。魔力を持っていないので」
飄々と答えるユウに、弱者は苛立った態度を隠そうともせず、無力な相手に躊躇なく魔法を繰り出す。
浮遊魔法で重力を失ったユウの体が、高い木の上に飛ばされ腹を中心に折り曲げるように太い木の枝にぶら下がることになったのだ。
ゲラゲラと笑いながら取り出したスマホで写真を撮り、去っていく弱者数人を木の上から見送った数分後。
想い人であるアズールに情けない状況を目撃されることになる。
彼は大層怪訝な表情を浮かべてユウを見上げていた。
そして声を掛けられたのだ。ハァ、とワザとらしい溜息を吐きながら、いつも何かに巻き込まれていますね、と。
「すみませんアズール先輩。グリムかエース達を呼んで頂けるととても助かるのですが」
ユウの言葉に瞳を眇めた後、もう一度ワザとらしいため息を吐く。返答は無い。
あのオクタヴィネル寮の寮長に軽々しく助けを求めるだなんて、更に自身の首を絞める結果になるのでは……と求められる対価への不安感で額が湿っぽくなり始めた時。
アズールは慣れた手つきで胸ポケットからマジカルペンを取り出し、ゆるりと振った。
するとまたユウの体が重量を失って、ゆっくりと地へと戻される。
「この方が早いでしょう」
アズールはそう言いながら、壊れ物のようにユウの体を優しく扱い地に下ろす。
久方ぶりにも感じる地の感触を足裏に馴染ませるように二回程その場で足踏みをした。
彼の意外な対応に「ありがとう、ございま、す」と言葉尻を窄めながら、裏ではインテリヤクザと呼ばれる親玉の表情を伺うように見上げる。
「では、僕はこれで」
立ち去ろうとするアズールの袖を無意識に掴んでしまっていた。