第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監
アズールは手の中にある、蓋の空いた小さな小瓶を見る。底には数滴だけ残ったエメラルドブルーが右へ左へと流れていた。
「でも小エビちゃん、幸せそうだよー」
長い尾鰭を水槽内で揺らめかせているフロイドは、腕の中で硬いカラダに抱きついて眠る少女を愛おしそうに抱き締める。
ゆらゆらと海水に遊ばれる少女の黒髪をひと撫でして額に唇を落として、そうしてもう一度抱き締めた。
「まぁ、確かに。監督生さんが苦しむ時間は、最初に比べれば随分と短くはなりましたね」
眉間を揉むアズールの隣に立っていたジェイドが水槽の前まで近寄り、眠る少女の顔をガラス越しに見る。
「そういう問題じゃないだろう。……フロイド、このままだと壊れるぞ」
眼鏡のレンズ越しにフロイドを睨みつけるアズールに、フロイドは考えるように、んー、とくぐもった声をあげ、そしてキョトンとした双眸でアズールに視線を戻す。
「俺、小エビちゃんが壊れちゃっても手放す気ねぇよ?」
「だからそういう問題じゃ……はぁ、もういい」
対価はちゃんと払ってもらいますよ。
だからぁ、俺の給料から勝手に引いててっつってんじゃん。
そんな会話をする二人に、ジェイドはふふっと微笑んだ。
フロイドはユウが初めて発作を出して以降、三日に一度真夜中に眠るユウを連れてモストロラウンジの水槽を訪れる。
眠りながらも藻掻き苦しむユウを、水中の底で優しく抱き締めるのだ。
俺だけを見つめて、俺だけを欲して、俺だけを求めて。ねぇ小エビちゃん、このまま俺に染まって堕ちて。這いあがれないくらいに。
アズールは到底理解できないと呆れていたが、ジェイドは何も言わなかった。
いつの日にか、ジェイドはユウに尋ねた。
監督生さん、貴女何となく分かっているのでは?と。
ユウは光を鈍らせた黒い瞳を平べったくして、穏やかに微笑むだけであった。
深く沈んで、暗い水の底でただひたすらに恐怖心に抗うように鼓動に縋りつく。
ジェイドはそんな二人をただ見つめながらあの時のユウのカオを思い出す。
薄っすらと瞼を開いたユウが、瞳にフロイドを映してふわりと笑った。
「おはよう。小エビちゃん」
ユウは水中で呼応する心地の良い声に安心感を覚えながら、フロイドのエメラルドブルーに色を変えた頬をそっと撫でた。