第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監
そんなリーチ兄弟の突然の登場にグリムはヒェッと震えた声をあげ、デュースも顔と背筋を強張らせる。
ただひとり、エースだけは怪訝な表情を崩さなかった。
フロイドは真上を向いている少女の顔をジッと見つめて、あれぇ、と首を傾ける。
「小エビちゃん顔色終わってね?どっかしんどい?抱っこしたげよっか」
「まっ、してるしてるっ。もうしてますっ」
返事を聞かずして座るユウの腋に手を入れてからヒョイと持ち上げた。白かった肌を赤く染めながら暴れる小エビを横抱きにしたフロイドは、楽しそうにケラケラと笑う。
グリムとデュースが呆然とする中、エースは眉間の皺を濃く刻み、机に置いた拳を固く握りしめている。
「お、おろしてくださいフロイド先輩っ」
「あはっ、だぁーめ。無茶する小エビはこのまま連行でぇーっす」
「おやおや午後からの授業はどうするんです?」
「ふけるー」
あはっと笑い、長い脚を一歩踏み出したところで食い込むほどに捕まれた腕に脚を止める。
甘い声から一変して「ア?」と地を這う声音を出したフロイドは、歪に細めた双眸を自身の腕を掴むエースに向けた。
笑っているようで笑っていない。ビリビリとした雰囲気は腹に飼っている怪物のそれだ。
フロイドの腕の中に収まるユウは、エースの物々しい雰囲気に困惑しながら「エース?」と声を掛けるが、緋色の瞳がユウを見ることはない。
「カニちゃんなぁにー?何かあるんならさぁ、ちゃぁんと聞いたげるよー」
チラリと見せたのは陰惨な歯列。右眼に居座る金は刺すように光って獲物 エースを捕えている。
「おい、エースッ。やめろって。お前昨日からオカシイぞ」
止めに入ったデュースの腕を振り払い、エースは一度歯噛みしながら鼻の頭にまで皺を寄せている。
「納得出来ないっすね。色々と」
「ハ?カニちゃんに納得してもらう事なんていっこも無ぇーんだけど」
キュッと締まる明度の違う虹彩に、いよいよヤバイとデュースがエースを羽交い絞めにしようとした所で、ジェイドが二人の間に割って入った。
「ナニ?オマエも絞められてーのジェイド」
「まさか、丁重にお断りしますよ。僕のお腹の虫が限界だと五月蠅いのでお先にランチを頂こうかと」
二人の間に割った入ったジェイドは、そのままユウが据わっていた席へと腰掛ける。