第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監
珍しくランチの減りが遅いグリムは拗ねたように口を尖らせている。
デュースは顔にこそ出さないものの、彼も心の内は沈んでいた。
今朝オンボロ寮までユウを迎えに行ったエースとデュースは、ユウが発作を起こした原因について話をしてくれるものだと思っていた。
だがオンボロ寮から出てきたユウは、「昨日はビックリさせてごめんね。ちょっと疲れちゃってたみたいで」とはぐらかすように笑っただけだった。
ユウの肩に乗るグリムの表情からも察するに、暮らしを共にしている相棒にすら事実を告げなかったのだろう。
フロイドには全部話しているのに。そんな嫉妬めいた寂しさに、いつもの賑やかさを失っていた。
「信用して大丈夫なのか」
ぼそりと呟いたエースはいつの間にか空になったプレートへ、銀のフォークを行儀悪く置いた。その音にユウの肩がピクリと跳ねる。
「信用って……?」
「フロイド先輩」
間髪入れずに告げられた名前に、ユウは目をまん丸くさせながら小首を傾げる。
「フロイド先輩いい人だよ」
「そ、そうだぞエースお前何言って」
「俺は!」
ひと際大きな声をあげたエースは、ユウに被さる伸びた影の正体に見開いた目を向けた。
ばぁ。と甘ったるい声で獰猛な歯列を見せながら、ユウを上から覗き込む長身の男。今しがた話題に上がっていたフロイド・リーチであった。
その隣にフロイドの片割れであるジェイド・リーチが姿勢よくたっている。フロイドと同じカオではあるが、それを引き締めて品を足したような整った顔立ちで、見目の良い笑顔を張り付けたていた。
「ふ、ふ、フロイド先輩っ、そういう登場の仕方はやめてくださいと、何度も」
「だってぇ、小エビちゃん見っけちゃったんだもんー」
「こらこらフロイド、皆様の食事の邪魔をしてはいけませよ」
僕の片割れが申し訳ありません。謝罪を口にはしているがきっと微塵も申し訳ない心など持ち合わせていないのだろう。ジェイドは眉毛こそ困ったように下げているが、唇は弧を描いていた。
学園の内情を知っているものならばウツボのヤバイ方、と言えばジェイドの事だとすぐに検討がつく。礼儀正しさや言葉遣い等フロイドとは真逆の印象を受けるが、腹の底にドス黒い怪物を飼っている点では彼も同じ。むしろジェイドの方が陰惨さを見た目には出さず、ねっとりとした黒さがあるので恐ろしいのだ。