第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監
それでもユウの苦しみとパニックは治らず、呻き声を上げて硬いカラダに爪を立て続けている。
海の中では分からなかったが、苦悶の表情を浮かべる闇色の瞳には涙が溢れ続けていた。
ユウのカオを見てフロイドはゾクリと背筋に何かが這うような感覚に、は、と息を吐く。
想像していた物とは全く異なる状況に、瞬きも忘れて少女を抱きしめる腕だけに力を込めていた。
チャキリと水に濡れた3連のピアスが鈍い音を鳴らしたのが合図だった。
ただがむしゃらに尾鰭を動かし、海岸まで全力で泳ぎきる。
地上では酷く不自由なカラダを必死に動かし、波打ち際で少女を横たわらせようとしたが、ユウは未だに言葉にならない呻きをあげながらフロイドにしがみつき続けている。
フロイドは必死に、少女の小さな体を抱きしめた。その体が壊れぬように力を加減出来てる辺り、まだ脳は冷静に判断出来ているなと考えながら。
三十分程して落ち着きを取り戻した少女はやっとその瞳にフロイドを映し、自身の醜態を謝罪しながら原因となった過去の話を恐る恐る話始めたのだ。
フロイドは腕の中にすっぽり収まる小さな体で、慎重に言葉を選びながら紡ぐ少女をギュッと抱きしめて願っていた。
ねぇ小エビちゃん、このまま俺に——……。
眠る少女は規則正しい寝息をたてている。こうしてじっくりと少女の顔を観察するのは何度目だろうか。
心地よくて澄んだ声を生み出す唇は、艶はあるが薄く頼りない。
弱っちぃ感じが小エビちゃんっぽい。そんなことを思いながら小さく笑い、親指の腹で少女の唇をなぞった。
「……ん」
「あ、起こしちゃった?」
長い睫毛を痙攣させたユウの顔をフロイドが覗き込む。
眉間に僅かな皺を寄せて薄らと目蓋を開けたユウの視界に、穏やかな顔をしたフロイドが映された。
「フロイド……せん、ぱい……」
「はぁいー。ごめんねぇ、小エビちゃん寝てたのに」
でもー、ちょっとだけ起きて欲しいなぁって思ってた。黒曜の瞳が悪戯に笑う少年をいっぱいいっぱいに映し出す。
ふふ、正直ですね。釣られて笑ったユウに「だって俺だもん」と悪びれる様子のないフロイドが、そ、と少女の滑らかな頬を撫でる。
「……へーき?」
「大丈夫です。毎度のことながら、ご迷惑をお掛けし」
「謝んなっつったでしょ。俺が望んでやってんの」