第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監
アズールやジェイドから見れば、フロイドがユウというただの人間の少女に執着していることは一目瞭然であったが、当の本人は全くその感情を理解していなかった。
そんなフロイドが気付かぬ内に芽生えた淡い感情を自覚したのは、それから少し後のこと。
「食いもんが無ェならオレは行かねぇゾ」と頑としてベッドから起き上がらないグリムを置いて、行き先を告げずフロイドがユウを連れ出した時だ。
天と地を目まぐるしく行き来するような気分屋なこのウツボが、小エビひとりの為にサプライズで海の中へと連れていく計画を立て実行した。
人間であるユウを海中に連れて行くためには魔法薬がいる。それをアズールに言って用意してもらい、出発前にジュースに混ぜて飲ませた。
きっと海中に沈んだ少女は、小エビのようにビクッと体を震わせて、その後に大きな瞳をキラキラと輝かせながら海中の景色に感動するんだろう。
フロイドはそんな事を考えながら、高鳴る胸を抑えつつ少女と海へ向かった。
予想もしていなかった。
海に着いたユウはフロイドが想像していたものと同じ顔で、凪いだ水面にキラキラと反射する陽を見て同じように黒曜の瞳を輝かせていたから。
「海、久しぶりに来ました。……綺麗」
海風に遊ばれる髪を耳に掛けながら微笑むユウが堪らなく可愛くて、フロイドは思わずその体を抱き上げる。
小さな悲鳴をあげた少女の体をしっかり抱き込み、長い脚を一歩進めればそこは海。
二メートル程の高さから水面に落ちる寸前で、フロイドは自身のカラダを本来の姿に戻し、少女は突然の浮遊感にフロイドにしがみついた。
ここまではフロイドの計画通りだった。
海の中で焦るユウに「息出来るよ」って教えてあげてから、海の中の景色をたくさんたくさん見せてやるつもりだった。
また先程と同じようなキラキラとした瞳を見せてくれるものだと、信じて疑わなかった。
「あ、がっ……ぁあ……ッ」
ユウは異常に苦しみ始めたのだ。
魔法薬の効果は出ている筈で、それをフロイドが必死に伝えようにも少女には声が届いていない。
もだえ苦しみ、人魚の姿に戻ったフロイドの硬い背に爪を立てて縋り付き始めたのだ。
まるで海水に肺を侵されて窒息しているようで、異様とも思える程にもがく少女の体をすぐに海面から出してやる。