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600秒の夢境【twst短編集】

第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監


 迷うことなくユウの寝室へと向かったフロイドは、ギュッと一度だけ腕の中の少女を抱きしめてベッドへと下ろしてやった。
 布団を肩まで掛け、額にそっと唇を落とす。
 ベッドの脇に腰かけるとスプリングが小さな悲鳴をあげて沈んだ。行儀悪く足を投げ出せば、さらに深く沈み込む。
 ちらりと規則正しい呼吸を繰り返す少女に目を向けて、その素朴であどけない寝顔に自然と頰が緩む。
 突然このツイステッドワンダーランドに現れたユウという少女は、それはそれは弱い生き物だった。
 小柄でヒョロヒョロに細くて肌は透き通るような白。不測の事態が起これば小エビのように体を跳ねさせビクビクと震えだすし、この世界では当たり前の魔力を一切持たない。
 その癖に危険な事にはよく巻き込まれ、自らもわざわざ首を突っ込んだりもする。
 ただの命知らずな馬鹿じゃん。フロイドは小エビと愛称を付けた少女のことをそんな風に思っていた。
 モストロラウンジでもヒョロヒョロの腕では持てる料理もグラスも限度があり、他のスタッフに比べて提供に時間が掛かる。
 馬鹿で弱っちくてノロマ。フロイドはそんなユウによくイライラさせられていた。
 だが少女は不思議なことにミスをすることが無かった。オーダーを間違えることもなければ、予約人数と時間、どのテーブルにいつ、何人が入ったかや、食材の在庫管理等。少女に聞けば全て正確に返ってくる。
 客に理不尽に怒鳴られた時はビクビクと震えたりする癖に、少女の真っ黒な瞳から光が失われた所をフロイドは見たことがない。
 それは今までの命に関わるような面倒ごとに巻き込まれた時も確かそうだった。
 いつもその奥に芯のようなものがしっかりと映っている。
 その頃からフロイドは少女を無意識に観察するようになっていた。
 そして気付く。あぁ、弱いからか。弱いからそうやって補いながら必死に生きてきたのだ、と。
 海のギャングと呼ばれるウツボとは正反対の生き方をする少女から、だんだんと目が離せなくなっていく。
 廊下で会えばちょっかいを出すし、休みの日は突然オンボロ寮へ出向いたりもした。
 袋いっぱいに詰めた食材でグリムとユウに手料理を振る舞うことが、いつの間にかフロイドの日常になっていった。
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