第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監
ジェイドとアズールに言っちゃってめっちゃ怒られたんだよね。フロイドはエースの心の内を見透かしているかのように余裕のある表情で、エースにとっては牽制ともとれる言葉を放つ。
「ア?」
途端にエースの眉間に濃い皺が刻まれた。
抱いた不信感も相まってあからさまに敵意を剥き出しにするエースに、訳が分かっていないグリムは怯えたようにデュースの背に隠れ、デュースは狼狽えていた。
「お、おいエース。お前なにフロイド先輩に喧嘩売って」「デュースは黙ってろ」
体格も魔力も魔法の技術も、全てにおいてエースはフロイドに劣っている。
エース・トラッポラは聡い男だ。いつもなら現状を見極め、軽口を叩いてのらりくらりとかわすのだろうが、珍しく理性を失っているエースにデュースは次の言葉が出ずに口を紡ぐしか無かった。
右目に嵌る金をギラつかせ、ゆらりと長い上半身を揺らしエースに詰め寄ったフロイドに、デュースは戦闘になる事を見越してマジカルペンに手を掛ける。
「カニちゃんさぁ」
揺れる長いカラダに、透き通るような青と、一筋だけ居座る黒がゆらりとついて行く。
フロイドは眠る少女を腕の中に抱いたまま、エースの右耳へと唇を寄せた。
「小エビちゃんが求めてんのはぁ、俺なんだよねぇ。だからさぁ」
——— でしゃばんなよ。
深海のように暗く、ずるりと這うような声音だった。
瞠目するエースを余所に、耳元から離れたフロイドはパッと表情を明るくさせる。
「ってことだから、今日のバスケはお休みしまぁすってウミヘビくんに言ってて。カニちゃんよろしくねぇ」
ひらりと長い指を広げてフラフラと振りながら、ユウを抱えたフロイドは背を向けてゆらゆらと歩いて行った。
「何、言われたんだ」
微動だにしないエースに、デュースが戸惑ったように問いかける。
しかし堅く拳を握りしめたエースから返ってきた言葉は「何もねぇよ」だけであった。
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一応片手は使うことが出来るのだが、その手が埋まっていようが空いていようが、開くドアは全て蹴り開けることがテンプレ化されているこの男は常に長い脚を使う。
それはオンボロ寮のように劣化の激しい建物であっても配慮は無い。
ガァンと蹴り開けた後、ミシリと嫌な音を立てる扉を気にも留めずに我が物顔で踏み入る。