第5章 Dye Me In Your Hue/フロ監
ユウの肩に乗っていたグリムが焦ったように少女の名を叫び始めたのだ。
一歩先でエースとデュースが何事かと振り返ると、ユウは両手で縮こまる華奢な体を掻き抱くようにしてしゃがみ込んでいた。
あ、だとか、う、だとか。言葉にならない声を数回放った後に、体を掻き抱いていた手は耳を塞いだのだ。
詰まるような喘鳴、震える小さな肩。エースがその肩を抱き締めようと手を伸ばした瞬間に、まるで全てを見ていたかのようなタイミングでフロイドが現れた。
余裕のある表情と慣れた手付きで少女を軽々と抱き上げ、ユウの愛称を呼び続けるフロイドの姿をエースは茫然と眺めていた。
何が、起こったんだろうか。
エースは回らぬ脳みそを無理矢理フル回転させて目の前の状況を把握しようとする。
落ち着いたフロイドの態度。ユウの意識が飛んでも尚、その態度は変わらない。
むしろ、その姿を平べったい瞳で愛おしそうに見つめている。
何だかそれが、まるで——— ……。
「あー、そっかぁ。カニちゃん達は知らないんだよねぇ」
尖った歯列は見せず、口端を上げるだけに留めた笑みでフロイドはエースを見下す。
「……何がっスか」
凄むエースに、フロイドはその表情を微塵も崩すことなく続けた。
「この子、元の世界に居た時に海の藻屑になりかけたんだって。稚魚ちゃんだった小エビちゃんをオトーサンとオカーサンが助けようとしたらしいんだけど、助かったのは小エビちゃんだけ」
眠るユウの髪を愛おしそうに撫でながら、その時の記憶が蘇るんだって。それに苦しめられるんだって。と感情の読み取れない、抑揚のない声音でフロイドは言った。
エース、デュース、そしてグリムは初めて聞くその話に瞠目し言葉を失っていた。
その中でもエースは動揺を隠しきれぬようで、緋色の瞳が不自然に揺れている。
確かにユウとの付き合いは長い方ではない。いくら仲が良いとはいえ、心に負った深い傷の話など出来る間柄ではないのかも知れない。
だが、フロイドには話していたのだ。ユウにとっては異世界であるツイステッドワンダーランドでは、自分達が一番少女に近い存在だと思っていたのに。
「あ、この話は知らねえことにしててねぇ。小エビちゃん、俺以外には知られたくなさそうだったから」