第2章 空虚に絵を描く/ジェ監
絵に描いたような幸せだった。今この時に時間が止まってしまえばどれ程いいだろう。
「ジェイド……」
突然聞こえた馴染みの声に、ジェイドは振り返る。
ジェイドと酷似した容姿を持つフロイドが、明度の違う双眸を鋭くさせて立っていた。
握り込まれた拳は僅かに震えている。
それなのに、少女は愛おしそうにジェイドを見上げたままだ。
「なに、してんだよ」
「……?ユウさんと本日の晩ご飯の」
「だから!!」
フロイドが怒声をあげても、ギチリと陰惨で鋭利な歯列を擦った音を鳴らしても、ユウは一向にフロイドを見ようとはしなかった。
「いつまでやってんだよ!?ア!?辞めたんじゃ無かったのかよ!?無意味なことしてんじゃねぇっつったよなァ!?」
ジェイドの胸ぐらを掴み上げたフロイドは、声も表情も。全てに怒りを乗せているのに、瞳には大粒の涙が居座っていた。
「大きな声を出さないで下さい。ユウさんが」
「いねぇよ!!」
「は?」
「いねぇよ小エビちゃんは……もう、いねぇじゃん……小エビちゃんは百五十年前に死んじゃったじゃん……」
ジェイドはとうとう自分の兄弟がおかしくなったのかと思った。
少女の姿は確かにそこにあるのだ。
ほら、また顔を赤らめて俯いている。先手を取らなければ。
意地悪い僕に向ける顔が、愛おしくて大好きなのだ。
「目ェ覚ませよ!?なぁ!?いい加減にしてくれよ……やめてよ、もうこんなこと」
胸倉を掴んでいた手を離して、握った拳を振り上げる。そしてそのまま、力一杯少女の体目掛けて拳を振りかざした。
フロイドの手は少女の体を難なくすり抜けて、空気を裂いただけでフロイドの元へと戻っていく。
「大好きです!ジェイド先輩!」
ユウはジェイドをしっかりと見据えて、赤らめた頬のまま屈託のない笑顔で音に出す。
フロイドはそれを見て、う、と呻くと手で自身の顔を覆う。指の隙間から溢れた滴が袖口を濡らしていった。
「辞めろよもう。受け入れろよ。こんな幻覚魔法使ったって小エビちゃん、戻ってこねぇじゃん……もう若くねぇんだよオレ等……こんな魔法ずっと使い続けてたら、死んじゃうって……」