第2章 空虚に絵を描く/ジェ監
世界は僕達が出会ったあの頃よりも随分と変わってしまっていた。
当時は毎日魔法薬を服用しなければ尾鰭をヒトの脚に変え続ける事が出来なかったのに、現在では一度服用すれば一年はヒトのままでいられる。
ユウさんのマブとやらが気に入っていたマジカルホイールとやらも、今では海を走る船になったりホウキ変わりの空飛ぶ乗り物へと変化出来るようになっている。
世界は日々変わっていく。
人魚の寿命は長い者で三百年と言われている。
この先どんな風に変わっていくのだろうか。ジェイドはテレビから流れてくる新しい魔法具の紹介番組をちらりと横目で見て、電源を切った。
「ジェイド先輩っ!」
だが、ジェイドの愛おしい番であるユウだけはあの頃のままだ。
小さな体で愛らしい笑顔を毎日向けてくれるし、透き通った声はすぅーっと耳に入ってくる。
少々落ち着きの無い行動に合わせて肩口で揺れる黒髪も、ジェイドは大好きであった。
「今日の晩ご飯、ミルクスープにしませんか?私、ジェイド先輩が作ってくださるミルクスープが大好きなんです」
「ふふ、またですか?昨日も食べたでしょう?……ですが、そんなに愛らしく言われてしまっては作るほか無くなってしまいますね」
可愛らしく小首を傾げる少女に穏やかな笑みを向けて、ゆったりとソファから立ち上がった。
座った姿勢で僅かに凝り固まった体を背伸びで伸ばして、痺れている手を握って開いて。そうしてキッチンへと向かう。
「今日は海鮮にしましょうか。新鮮な海老や貝をたっぷり入れて、それで……残っているパンをスープに浸して食べるのは如何でしょう?」
その問いかけに、ユウからの返事はなかった。
疑問符を浮かべたジェイドが少女に視線をやると、少しだけ俯いて頬を赤く染めている。
あ、なるほど。ジェイドは少女のこの仕草を知っている。
ユウがこうして顔を染めている時は、だいたいジェイドに「好き」だとか「愛してる」のような言葉を紡ごうとしている時だ。
だからいつも先手を取ってやるのだ。
「愛してますよユウさん。僕の愛おしい番」
「あ、わっ、えっと、その……私も、愛してます。ジェイド先輩……」
先に言われてしまった。と照れながら微苦笑を浮かべる少女が可愛くて可愛くて、いつもこうして意地悪をしてしまうのだ。