第1章 変わらないもの、変わっていくもの
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「智くんは良いよなぁ…うるさい事言われなくてさぁ」
翔くんが、とぼとぼと歩きながらボヤく
僕は、そのちょっと可哀想な姿を横目で見ながら言った
「まあねぇ、俺んちは姉ちゃん結婚して孫も居るし
姉ちゃんの旦那はマスオさん状態だしね」
「うちにもマスオさん欲しいわぁ」
「何?翔くん嫁じゃなくて婿もらうの?(笑)」
僕が、そう言って笑うと
翔くんが、急に真顔になって言った
「……うん、智くん俺んとこお嫁に来てよ」
「……あほか、俺男だぜ」
「……そっか、じゃあ嫁じゃなくて婿だ
て言うか、マスオさんも婿だな。」
「……そうじゃないだろ」
冗談みたいな会話をする俺らの顔は
二人揃って、真顔だった
並んで歩く足が
どんどん歩を緩めていく
「……ねぇ、智くんてさ、何で彼女つくんないの?」
日が、沈んでいく
「……翔くんは、なんでそんなに結婚すんのが嫌なの?」
僕らの後ろをついてきていた影が
夕闇に紛れて薄くなっていく
「……それは……秘密です」
「……んじゃあ、俺も秘密。」
のろのろと家路を行く僕らを
夕闇が包んで行く
「……俺が、秘密を言ったら、智くんも秘密を教えてくれんの?」
「……それも、秘密。」
僕らは
訪れた夕闇の中で
再び立ち止まった
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